ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

特集:新時代の結晶学-X線自由電子レーザー日本結晶学会誌56,15-21(2014)超短パルス粉末X線回折による光励起ピコ秒構造相転移計測技術の開発京都大学工学研究科材料工学専攻松原英一郎,徳田一弥,河口智也,山田昇Eiichiro MATSUBARA, Kazuya TOKUDA, Tomoya KAWAGUCHI and NoboruYAMADA: Development of Measurement Technique of Photo-induced PicosecondStructural Transition by Ultra-short Pulse Powder X-ray DiffractionWe are developing an ultra-short pulse powder X-ray diffraction method using X-ray pulsesof high brilliance and femtosecond pulse width from the X-ray free-electron laser apparatus inSACLA, Japan. The distinctive feature of this method is detection of anisotropic crystal structuredeformation during non-thermal process. We have applied this method to some materials,including chalcogenide Ge-Sb-Te, porous coordination polymers, hydroxyhydrides, etc. In thisreview, we will introduce some preliminary results of observation of photo-induced anisotropiclattice expansion in a non-thermal process in a metastable face-centered cubic Ge 2 Sb 2 Te 5 crystal.1.はじめにわが国のX線自由電子レーザー施設SACLAの供用が2012年から始まり, 1)われわれは高輝度・超短パルス性・完全空間コヒーレンスなどの特徴を有する,これまでにないまったく新しいX線光源であるX線自由電子レーザー(XFEL)を利用できるようになった.このXFELを用いて,現在,さまざまな独創的な研究が行われている. 2)-7)われわれはこのXFELの高輝度,超短パルスの特徴に着目し,フェムト秒光レーザーを照射した際に結晶物質中で起きるピコ秒オーダーの時間での構造変化を実験的に観測する方法の開発を進めている.本解説では,われわれが取り組んでいる計測技術と現在得られている計測結果について紹介する.固体の特徴的な時間であるデバイ振動数(10 11~10 13Hz)で規定される原子振動周期(0.1~10 ps)より短いパルス時間幅のフェムト秒レーザーを照射した場合,固体中の一様な熱による励起とは異なり,電子系のみを選択的に励起することができる.このようにして励起された電子系のエネルギーが,さまざまな電子の散乱過程を経て格子系に伝播し,そして結晶構造の変化を誘起し,最終的には熱として系外に放出される.われわれが興味をもつのは,フェムト秒光レーザーによって励起された,熱による格子変化が発現する前駆段階での結晶の構造の変化である.すなわち,ピコ秒の時間領域での詳細な構造変化を捉えるための技術開発である.パルスX線源を用いた光励起現象の研究は,弾性波の日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)伝搬, 8)-10)非熱的融解, 11)コヒーレントフォノンの生成消滅, 12),13)相変化14)など多岐にわたってきた.これらの研究で用いられてきたパルスX線源とSACLAの単色化した場合のXFEL光源とを表1に比較してみた. 15),16)この表からわかるように実験室光源であるレーザープラズマと放射光源であるレーザースライスはともに,フェムト秒オーダーの短いパルス幅を示し,ピコ秒オーダーの現象を計測するのに十分な時間分解能を有している.一方,放射光パルス光源の場合,先の2つのフェムト秒光源に比べて強度は大きく上回るものの,パルス幅が数十ps程度であるため,ピコ秒オーダーでの現象を詳細に計測することはできない.これらの従来型のパルス光源に対して, XFEL光源はレーザープラズマやレーザースライスなどのフェムト秒光源と同等あるいはそれ以上の時間分解能をもち,強度はパルス放射光源に匹敵する強度をもつことから,われわれが目指すピコ秒領域での構造変化を計測するために最適な光源であることがわかる.この新しいXFELパルスX線の出現により,ピコ秒時間領域での構造変化を精度よく計測できるようになっただけでなく,測定対象となる試料の種類や形態の選択の自由度が大幅に増えることになった.表1で紹介したこれまで用いられてきた2つのフェムト秒X線光源の場合,光源の強度が弱いため測定には,強い回折ピーク強度を得ることができる単結晶が用いられてきた.例えば,レーザースライス光源による単結晶Biのコヒーレントフォノンの伝播過程の測定では,強い回折ピークを用いて約50点の遅延時間変化を約90分で測定している. X線の強度がXFEL15