ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

矢橋牧名期した液滴型のインジェクタの開発が進められており,消費量を3桁抑制できると期待されている.また,ゲル状の溶媒をゆっくり押し出す高粘調媒体型のインジェクタも開発されている.消費量の抑制とともに,脂質キュービック相(LCP)中で成長する膜タンパク結晶の解析にも有効である.本システムは,結晶構造解析に留まらず,溶液散乱計測などの広角散乱実験に対しても幅広く適用でき,また広い範囲で試料の温度・湿度制御も可能である.さらに,3.2節で述べた光学レーザーとのポンプ・プローブ実験も容易に適用できる. 4章で紹介する新設のビームライン(BL2)の主要システムの1つとして,これまでXFELに馴染みのなかった研究者も試料をもち込むだけで計測ができるよう,汎用機としての運用を行う予定である.インジェクタの安定動作を行うためには,試料ごとに丁寧に条件出しを行う必要があるが,実験前にオフラインで十分なテストを行うことにより解決できる.このための環境整備も進めている.4.今後の展望SACLAは, 2012年3月の供用開始から2年が経過し,立ち上げフェーズからいよいよ本格利用フェーズに入ってきた.さまざまな分野で成果が出始めている.最新の一覧については, SACLAのホームページ23)をご参照頂きたい.世界のXFEL施設が抱える共通の課題として,多数の実験提案に対するビームタイムの供給不足があげられる.例えば, SACLAの利用課題採択率は約5割, LCLSに至っては2割前後という値に留まっており,通常の放射光施設(7割前後)と比べてもかなり低い.ビームタイムの不足が成果のボトルネックとなることが懸念されている.この状況を改善するためには, SACLAでは,現行のBL3に加えて新しい硬X線FELビームライン(BL2)の建設を進めている. 2014年度から利用運転を開始する予定である.60 Hzの電子ビームをパルスごとに2つのビームラインに振り分けることにより, 24)実効的なビームタイムの倍増を図る.また,新しい光源であるXFELは,現在も性能の飛躍的な向上が進んでいる.実際に, XFEL光のシングルモード化を簡便に行う「セルフシーディング技術」25)や,二色のXFELパルスを生成しながらパルス間隔をアト秒オーダーで制御する「二色発振」26)をはじめ, XFEL施設完成当初には想定されていなかった方式が次々に着想され,実現されている.今後さらに可能性を追求し,まったく新しい利用への展開を進めていきたい.謝辞DAPHNISシステム開発の一部については,文部科学省「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」の「創薬ターゲット蛋白質の迅速構造解析法の開発(研究代表者:岩田想教授(理研・京大))」,フェムト秒X線分光法の開発の一部については,同課題の「溶液化学のXFEL時間分解分光の開拓(研究代表者:鈴木俊法教授(京大,理研))」の支援を受けて行われた.文献1)Y. Umena, K. Kawakami, J. -R. Shen and N. Kamiya: Nature473, 55 (2011).2)P. Emma et al.: Nature Photon. 4, 641 (2010).3)T. Ishikawa et al.: Nature Photon. 6, 540 (2012).4)T. Shintake et al.: Nature Photon. 2, 555 (2008).5)H. Mimura et al.: in press6)K. Tamasaku et al.: Phys. Rev. Lett. 111, 043001 (2013).7)R. Neutze, R. Wouts, D. van der Spoel, E. Weckert and J.Hajdu: Nature 406, 752 (2000).8)S. Boutet et al.: Science 337, 362 (2012).9)https://portal.slac.stanford.edu/sites/lcls_public/Pages/Publications.aspx10)C. Song et al.: J. Appl. Cryst. 47, 188 (2014).11)T. Kimura et al.: Nature Commun. 5:3052 doi: 10.1038/ncomms4052(2014).12)中迫雅由他:日本結晶学会誌56, 27 (2014).13)T. Katayama et al.: Appl. Phys. Lett. 103, 131105 (2013).14)Y. Obara et al.: Opt. Exp. 22, 1105 (2014).15)石川哲也:日本結晶学会誌56, 4 (2014).16)K. Tono et al.: New J. Phys., 12, 083035 (2013).17)T. Kudo et al.: Rev. Sci. Instrum. 80, 093301 (2009).18)M. Suzuki et al.: to be published.19)K. Tono et al.: Rev. Sci. Instrum. 82, 023108 (2011).20)M. Kato et al.: App. Phys. Lett., 101, 023503 (2012).21)Y. Inubushi et al.: Phys. Rev. Lett. 109, 144801 (2012).22)H. Yumoto et al.: Nature Photon. 7, 43 (2013).23)http://xfel.riken.jp/research/indexnn.html24)T. Hara et al.: Phys. Rev. ST. Accel. Beams, 16, 080701 (2013).25)J. Amann et al.: Nature Photon. 6, 693 (2012).26)T. Hara et al.: Nature. Commun. 4:2919 doi: 10.1038/ncomms3919(2013).プロフィール矢橋牧名Makina YABASHI理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門RIKEN SPring-8 Center, XFEL Research andDevelopment Division〒679-5148兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1Kouto 1-1-1, Sayo, Hyogo 679-5148, Japane-mail: yabashi@spring8.or.jp最終学歴:東京大学大学院工学系研究科専門分野:X線光学現在の研究テーマ:X線光学趣味:ピアノ,庭仕事14日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)