ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

X線自由電子レーザー施設SACLAの概要発した.これは,目的に応じて交換可能な各種の試料インジェクタ,小型の試料チャンバー,専用のMPCCDオクタルセンサーから構成されている.設計のコンセプトとして,各コンポーネントを物理的に分離し,開発・運用の効率を大幅に高めながら高い性能の実現を図った. DAPH-NISの外観を図5に示す.MPCCDオクタルセンサーは,入射窓として大型のベリリウム窓を設け,センサーを真空内に封じ切り,試料チャンバーと独立に運用可能とした.さらに,センサー面とベリリウム窓との距離を小さくとって試料位置からセンサー面までの距離をできるだけ近接させる(~6 cm)ことにより,入射光軸に対して±45°(2θ)の範囲の回折信号の計測を可能とした(図6).試料チャンバーは,真空環境ではなくヘリウム雰囲気で運用される.この環境は,後述する液体インジェクタを安定に動作させるために有用である.真空環境と比べて,照射後の試料の回収もはるかに簡便になっており,安全面で注意が必要なサンプルも利用しやすい.試料インジェクタは,初号機としてガスフォーカスタイプの液体ジェットインジェクタを開発した. 10)試料の消費量を抑制するためには,流速を下げかつ液体ジェットの径を小さくするのが有効であるが,ノズルの目詰まりが問題となる.これを防ぐために,液体ジェットの外側にヘリウムガスを流して,直径10~30μm程度まで絞り込みを行う(図7).システムの総合試験として,サイズ5μm程度のリゾチームの微結晶を溶媒に懸濁させ, 20 Hz運転下のXFELパルスに対して回折像を取得した(図8). DAPHNISはEH3に設置され,入射X線は前述の集光システムによって約1μmに絞り込まれている.約1時間で70,000ショットのXFELパルスが照射され,約2割のショットに対して指数付けが可能となった.解析の結果, 2 Aを切るような良好な分解能が得られた.今後のシステムの高度化の概要を述べる. 1つは,検出器の検出効率の向上である.現行のMPCCDは,実効的な有感層の厚みが50μmと薄いため, 6 keV付近のX線に対しては検出効率は高いが,短波長領域では低下する.例えば,光子エネルギー10 keVに対しては約30%となっている.効率を高めるために,実効厚さ300μmのセンサーの開発を進めている.これにより, 10 keVの効率が90%近くにまで増加し, SACLAの短波長特性を十分に活かした実験が可能になると期待される.もう1つのポイントは,サンプル消費量の抑制である.現在の液体ジェットインジェクタでは,典型的なサンプル消費量は0.2 mL/minであり,高品質のデータを取得するために100 mgオーダーのタンパク質結晶を必要とする.しかし,このほとんどすべてが, XFEL未照射時に放出されている.この問題を解決するために, XFELパルスに同図7インジェクタから吐出される液体ジェット.(Liquidjet from injector.)図5DAPHNISの外観.(Photograph of DAPHNIS.)図6短動作距離型MPCCDオクタルセンサー検出器.(Short Work Distance MPCCD Octal Sensor Detector.)日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)図8リゾチーム微結晶からのシングルショット回折像.(Single-pulse diffraction pattern from a smalllysozyme crystal.)13