ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

矢橋牧名ている. 20)さらに,高分解能のスペクトル計測を行うために,われわれは,楕円ミラーと平板シリコン結晶を組み合わせた高分解能スペクトロメータを開発し, 10 keVにおいて13 meVという高い分解能を達成した.スペクトルの微細なスパイク構造(図4)を解析することにより, SACLAのパルス幅が10 fs以下であると見積った. 21)表1に典型的な光性能をまとめる.また,ビームの重心位置の変動はビームサイズと比べて十分小さい.3.実験ステーション3.1構成SACLA BL3の実験ステーションは, EH1?4の4つのステーションから構成される.上流から順に,先進オプティクス(EH1),ポンプ・プローブ(EH2),コヒーレント集光(EH3),大型装置(EH4)となっている. EH1では,新規光学系や診断系のR&Dが行われる. EH2では, XFELパルスに同期したフェムト秒光学レーザーを利用可能であり(3.2節参照),主にポンプ・プローブ実験に供されている.EH3では, XFEL光を1ミクロンに集光する光学系が常設されており, CDI, SFX,非線形X線光学などの高強度のXFEL光を必要とする実験が行われている.この集光ミラーは,斜入射のミラーを2枚組み合わせたKirkpatrick-Baez配置に基づくものである.コヒーレントなX線を理想的に集光するために,ビームライン基幹部と同様, EEM法によって製作された超高精度ミラーが導入されている. 22)EH3では, EH2と同様に同期レーザーが利用できる. EH4は大型の装置が搬入可能である.また,下流の相互利用実験棟内にはEH5が設置されている.ここでは,東大の三村秀和准教授,大阪大学の山内教授らとともに開発した二段集光システムが導入され, EH3よりもさらに小さい50ナノメートルの集光サイズが実現されている. 5)また,相互利用実験棟内には,高エネルギー密度科学をターゲットとした,大強度のレーザーの整備が進められている.3.2同期レーザーシステム独立したレーザーブース内にレーザーシステムが設置されている.レーザー光はEH2・3に輸送されポンプ・プローブ実験が行われる.レーザーシステムは,チタンサファイヤ(Ti:Sapphire)ベースのモード同期オシレータとチャープパルス増幅器(CPA:chirped pulse amplifier)から構成されている.波長変換の目的で,光パラメトリック増幅器(OPA:optical parametric amplifier)を利用することも可能である. CPAは,波長800 nm,パルスエネルギー2.5 mJ,パルス幅30 fs(FWHM)のビームを供給する.レーザーシステムの繰り返しレートは1 kHzであるが,回転シャッターを用いてXFEL光の繰り返しレート(最大60 Hz)に分周することが可能となっている. XFEL光に対する同期レーザーの遅延時間は,電気的な遅延装置を用いて1 ps単位,光学遅延ステージを用いて1 fs単位での調整が可能である.本レーザーは,加速器をドライブする高周波(RF)信号によってXFELパルスとの同期がとられている. RF信号は温度安定化された光ファイバーを用いて実験ホールまで輸送されているが,さまざまな要因によってXFELパルスとレーザーの到達タイミングにばらつき(ジッター)が生じる.この値を計測するために, SACLAでは,半導体結晶にXFELパルスを照射し,それによって引き起こされるバンド構造の時間変化をレーザーでプローブする,というシステムを開発した.評価の結果,典型的なタイミングジッターとして,約130 fs(rms)という値が得られている.言い換えると,数百fsの時間分解能は達成されているが, 100 fsを切るような値を実現するためには工夫が必要である.このために,ジッターの値をパルスごとに計測し,実験データと突き合わせる「ポストプロセス」という手法が有効である. SACLAでは,利用実験と同時にタイミングを計測するシステムを開発しており, 2014年の半ばを目処に常設化を行う.3.3検出器XFEL光は,シングルパルス内に多数のX線光子を含むため,従来の放射光で専ら用いられている計数型の検出器(パルスごとに最大1個の光子をカウント)は効率が非常に悪く,積分型(パルスごとに複数の光子をカウント)のシステムが必要となる.また,広い角度範囲にわたって精度良く回折信号を取得するためには,大面積かつ高分解能の二次元検出器が求められる.このために, SACLAでは,Multi-Port CCD(MPCCD)センサー検出器の開発を行った.繰り返しレート60 Hzで動作を行うために,センサー内に8つの読み出しポートを設けて高速に読み出しが行われる.ノイズレベルは, 6 keVにおいてピクセル当たり0.18光子以下を達成しており,シングルフォトンカウンティングが実現されている.一方,最大フォトン数はピクセル当たり~10 3個を実現している.ピクセルサイズは50×50μm 2 ,ピクセル数は1024×512個であり,約5×2.5 cm 2の領域をカバーする.さらに,このセンサーを8個組み合わせたMPCCDオクタルセンサー検出器が開発され,約10×10 cm 2の大面積の検出に利用される.オクタルセンサーから生成されるデータ量は, 1時間当たり最大数TByteと膨大なものになっている.オンラインのクイック解析,オフラインの詳細な解析,データストレージなど,最先端の計算機資源を活用しながらデータ処理・解析システムが構築されている.さらに高度な演算を行うために,理研神戸の京コンピュータへの接続整備が進められている.3.4 DAPHNIS1.2節で述べた“Diffract-before-destroy”スキームをSACLAで広く展開するために, DAPHNISシステムを開12日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)