ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

矢橋牧名の精度向上にも役立つと期待される.一方で,構造解析においても, XFELは大きな進展をもたらす.基本となるコンセプトは,“Diffract-before-destroy”スキームと呼ばれる. 7)試料にXFEL光を照射すると,イオン化過程を経て最終的に試料は破壊(destroy)されてしまうが, X線のフェムト秒程度の極短パルス幅が実効的な「露光時間」とみなせることから,破壊する前の回折像(diffraction image)を取得できる,という考え方である.特に,パルスごとにフレッシュな微小結晶試料を次々に視野に導入し,回折データを取得する方式は, SerialFemtosecond Crystallography(SFX)8)と呼ばれ,最近では,LCLSにおいて,ミクロンサイズの微小結晶を対象にした実験結果が多数報告されるようになった. 9) SACLAにおいても,システムの開発が精力的に行われ,非結晶を対象にしたコヒーレント回折イメージング(CoherentDiffractive Imaging:CDI)向けにはMultiple ApplicationX-ray Imaging Chamber(MAXIC), 10) SFXを含む回折・散乱計測向けにはDiverse Application Platform for Hard X-ray diffractioN In SACLA(DAPHNIS)と呼ばれるシステムを構築した. MAXICを用いて,北海道大学の西野吉則教授らが,生きた細胞のイメージングに成功している. 11)また,これとは独立に,慶應大学の中迫雅由教授らによって,クライオ条件下でCDIが可能な装置(壽壱号)も開発されている(詳細は本号の記事12)を参照).SACLAにおけるX線分光の取り組みも簡単に紹介する.構造解析と並ぶ汎用的な手法として, X線分光法は電子状態や局所構造を知るために広く用いられているが,XFELを用いるとフェムト秒の超高速X線分光が可能となる.われわれは,京大鈴木俊法教授,東京農工大三沢和彦教授らとともに,ビームスプリッタと波長分散型スペクトロメータを組み合わせた独自の吸収スペクトル計測法を開発した. 13)実証実験として,近紫外レーザーで励起した鉄の錯体に対して,吸収スペクトルが数百fsの時間スケールで変化する様子を捉えることに成功しており, 14)今後飛躍的な発展が期待できる.本稿では,まず, SACLAの加速器・ビームラインシステムと光性能を紹介する.続いて,実験ステーションの構成・基幹装置を示し,具体的な事例として, DAPHNISのシステムと適用例について報告する.最後に,今後の展望をまとめる.2.加速器・ビームラインと光性能2.1加速器システムXFEL光は,ほぼ光速度まで加速された高品質・高密度の電子ビームを,周期的磁場回路であるアンジュレータに通して生成される.鍵となるコンポーネントは,電子を発生する電子銃, XFEL光を生成するアンジュレータである.本特集号の記事15)に示されたように, SACLAは,なるべく低い加速エネルギーを用いて短波長のFELを生成することで,コンパクトな施設を実現し,建設・運転コストを抑制しながら安定で高い性能を達成することを目標において開発された.模式図を図1に示す. FELの基本波の波長λは,電子ビームのエネルギーをγ,アンジュレータの周期長をλU,アンジュレータの偏向パラメータをKとして,以下の式で表される.λ?Uλ=2+2γ?1??2??2K(1)周期長λUを小さくすることにより,加速エネルギーγを抑制しながら短波長を達成可能なことがわかる.このために,わが国で開発されSPring-8での豊富な実績を有する真空封止型の短周期アンジュレータが採用された.これは,対向する磁極を真空中におくことにより,磁極の間隔を小さくすることができるという技術であり, SACLAでは,λU=18 mmという短周期を使用している.これにより,加速エネルギー8 GeVでサブオングストロームという短波長のFELを生成可能となった.さらに施設をコンパクトにするために, 37 MV/mという高い加速勾配をもつCバンド(5.7 GHz)加速器システムが導入され,施設の全長を700 mに収めた.これは, LCLSやヨーロッパのEuropeanXFELに比べて3分の1以下である.また,高品質の電子源として, CeB 6の単結晶を陰極とした熱電子銃が開発され, XFEL発振に必要な高品質のビームを提供している.SACLAのアンジュレータホールには独立した5本のラインが設置できる. 2014年1月現在, XFEL光を生成するBL3と,軟X線の自発放射光を生成するBL1の2本が稼働している.電子ビームのルートの選択は,アンジュレータラインの上流の振り分け電磁石によって行われる.図1SACLAの模式図.(Schematic view of SACLA.)10日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)