ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

特集:新時代の結晶学-X線自由電子レーザー日本結晶学会誌56,9-14(2014)X線自由電子レーザー施設SACLAの概要理化学研究所放射光科学総合研究センター矢橋牧名Makina YABASHI: Overview of X-ray Free Electron Laser Facility SACLAAn overview of the SACLA facility is described. An accelerator and beamline system,and the performance of XFEL light are introduced. Experimental stations with a synchronizedoptical laser and 2-dimensional detectors are summarized. As a key experimental instrument,DAPHNIS system to perform shot-to-shot diffraction measurements is reported. A futureperspective is summarized.1.はじめに1.1 XFELの登場X線結晶構造解析は,物質中の原子の配列を直接観測する手法として,誕生から今日まで一世紀にわたって広く用いられてきた.特に, 1990年代の第3世代放射光源の出現により,解析の迅速化とルーチン化が進むとともに,適用範囲も飛躍的に広がった.機能性材料,エレクトロニクス,創薬をはじめとする幅広い分野において,最先端の研究開発を推進するために不可欠の手法となっている.一方で,限界もみえてきている.まず,解析が成功するためには高品質の結晶が必要であり,結晶成長技術がボトルネックになる場合も少なからず存在する.例えば,生体膜に存在する膜タンパク質は,創薬のターゲットとして非常に重要であるが,良質の大きな結晶を育成することが難しく,構造が解かれたのはごく一部に留まる.また,原子のダイナミクスを捉えることは機能を理解するためにきわめて重要であるが,対象とする系・分解能ともに,強く制約されている.これに関連して,タンパク質結晶構造解析を中心に,放射線損傷の影響を緩和するために液体窒素温度下の計測が広く行われているが,室温状態のダイナミクスを知ることはできない.光合成の触媒であるPhotoSystem IIは,岡山大の沈建仁教授らによってS1状態の立体構造が解かれたが, 1)実際に光を吸収して構造が変化していく様子はいまだ解明されていない.このような重要な課題に対して,従来とはまったく異なるアプローチによって革新的な知見をもたらすと期待されるのが, X線自由電子レーザー(XFEL)である. XFELは,高いピーク輝度,高い空間コヒーレンス,超短パルスという特徴を合わせもつX線光源である. 10フェムト秒(fs)を切るようなパルスの中に10 11個以上のコヒーレントなX線光子が含まれており,ショットごとにフレッシ日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)ュな状態の試料に対して計測が可能となる.これまで解析が困難であった微小結晶や非結晶の試料に対しても,ダイナミクスを含めて議論することが可能となる.しかしながら,このようなXFEL光の特性は従来光源と本質的に異なっており,利用にあたっても新たなコンセプト・手法・装置の開発が必要とされた.また,電子ビームを平衡状態で用いる蓄積リングと異なり,線形加速器ベースのXFELでは安定性に関する懸念があった.このようにさまざまな問題が山積していたが, 2009年4月に米国SLAC国立加速器研究所のLCLS, 2)次いで2011年6月にわが国のSACLA 3)がレーザー増幅を実現し,利用運転に取り組みながら1つ1つ問題を解決してきたことで,最近著しく見通しがよくなってきた.さらに,運転前には予想できなかったXFELの新たな可能性も明らかになってきた.1.2 SACLAが拓くサイエンスSACLAは,コンパクト型XFEL 4)という独自の設計思想に基づいて開発された.その光特性も諸外国のXFELと比べて特色のあるものとなっている.パルス数当たりの光子数こそLCLSに劣るももの,短いパルス幅(10 fs以下),高い光子エネルギー(10 keV以上)が利用可能であり,またコンパクト設計ならではの高い安定性も確認されている.さらに,世界トップのX線光学技術を導入することにより, 10 20 W/cm 2という世界最高のピーク強度も達成している5)(ちなみに,通常の放射光ではこれより10桁以下である).この高強度のX線を利用して, X線量子・非線形光学,高エネルギー密度科学など,従来まったくアクセスができなかった研究領域の開拓が進んでいる.理研の玉作賢治博士らは,高強度X線の励起によって,クリプトン原子のK殻の空孔が同時に2個生じる「ダブルコアホール」と呼ばれる現象を初めて観測した. 6)高強度X線と物質との相互作用の理解とともに,回折における位相問題9