ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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概要

日本結晶学会誌Vol56No1

石川哲也をカソードとする熱電子銃で薄い,したがってクーロン反発が小さい, 1ナノ秒幅の電子パルスを作る.これを数段の異なる周波数をもつ高周波空洞を通して,時間的に圧縮していく.加速しながら圧縮するため,相対論的効果によって電子の静止系からみた電子間距離は大きくなり,クーロン反発力は小さくなる.そのうえでさらに数段のマグネティックシケインを通して,最終的には電子バンチの時間幅を100フェムト秒程度まで圧縮する. 2001年に開始した研究開発は,予算状況による遅れはあったものの, 2003年にはコンポーネントレベルで当初の目的を達成した.そこで2004年にシステムとしてのX線自由電子レーザー設計を開始することとした.秋に国際レビューを実施することとして,概念設計レポート10)の準備を進めた.この国際レビューは生憎台風襲来と重なり,翌年2月に延期された.当初は6 GeVの電子線形加速器をベースとしたX線自由電子レーザー建設を目指していたが,この国際レビューで, SPring-8の入射器として使う可能性の指摘があり,最終的に8 GeV線形加速器を建設することとした.またここでは, SACLAで使用する技術の特異性から,小型プロトタイプでまず試してからという議論があり,当初計画での1 GeV試験機のさらに1/4の250 MeV線形加速器を用いたSCSS(SPring-8 Compact SASESource)試験機11)を建設することになった.4.国家基幹技術われわれが準備を進めていた2004年頃, 2006年度から始まる国の第3期科学技術基本計画の中で,「国家基幹技術」という旗が立てられるので,その候補となるような案を出せという要請があり, X線自由電子レーザー施設整備を挙げることとした.国家基幹技術の定義は「国家的な大規模プロジェクトとして基本計画期間中に集中的に投資すべき基幹技術」として総合科学技術会議が精選する技術である. 12) 2004年には,さまざまなところで計画の説明をさせていただいたが,コヒーレント硬X線光源としてのX線自由電子レーザーは望外の好評を得て, 2006年度の概算要求に進むことになった.この過程で, 2005年1月の日本放射光学会年会の最中に,読売新聞が国家基幹技術候補を報じ,その中に「コヒーレントと硬X線光源」が入っていたことから,ちょっとした騒ぎになった.日本放射光学会では将来計画特別委員会を立ち上げて検討を行い,5月のシンポジウムを経て,学会としてX線自由電子レーザーの推進支持を表明した.一方で,内閣府の総合科学技術会議の下に計画検討のための委員会が設置され,そこでもさまざまな検討が行われた結果,最終的に残った5つの国家基幹技術の1つとして,「X線自由電子レーザー」を推進することとなった.ちなみに,残る4つの国家基幹技術は,次世代スーパーコンピュータ,高速増殖炉サイクル技術,宇宙輸送システム,海洋地球観測探査システムである.5.建設体制の整備と運営に向けての準備2006年度から国家基幹技術として整備することが決定したことから,独立行政法人理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の間でジョイント・プロジェクトチームを結成し,その後の施設整備にあたることとした.計画準備段階では理化学研究所の新竹,北村,石川の三主任研究員が中心となってR&Dを進めてきたが,実機建設ではエンジニアリングワークの内製化も考慮してSPring-8の加速器建設を主導した熊谷教孝博士に建設の統括をお願いし, SACLA完成後の運転体制を見据えて,2006年度から運転を開始した試験加速器の運転統括をJASRI加速器部門の田中均博士にお願いした.そのうえで筆者が利用研究も含めた全プロジェクトを統括し,新竹主任が加速器開発,北村主任がアンジュレータ開発を統括するというプロジェクト推進体制を構築した.加えて,木田光春理研播磨研副所長をトップとする事務体制を作り,理研和光本部との強力な連携のもと,建設を進めることとなった.前述のようにSACLAが国の第3期科学技術基本計画での1つの目玉として推進されることになったが,すでに当時から国の財政状況は良好ではなく,当初エンジニアリングを幹事会社に任せて建設を行うことを想定して作成した予算計画を大幅に割り込んだ予算で計画を進めることが要請された.このため,建設体制を変更し,すべてのエンジニアリングワークを内製化することを前提に組み直すこととした.その結果300を超す企業との直接のやりとりによってSACLAを建設することになり,企業間の調整作業などをわれわれが行うことになった.これは大変な作業ではあったが, SPring-8建設時の経験を活かすことにより,何とか乗り切ることが可能となった.2006年度から始まった施設整備は,最初に施設を収納する建屋整備を行い,それと並行して加速器コンポーネントの製作を進めた.その後順次アンジュレータ,ビームライン機器等を製作し, 2009年度から設置作業に取りかかった.これは2010年度まで続き, 2011年2月にハードウェアとして完成した.その後3カ月あまりで調整を行い,2011年6月初旬にX線領域でのレーザー増幅を確認した.その後,レーザー調整と利用実験装置の整備を進め, 2012年3月に一般共同利用を開始した. 13)レーザー増幅を確認した最短波長は0.063 nmであるが,この波長では飽和していない.共同利用時には,レーザー出力が飽和しているエネルギー4~15 keV(波長0.3~0.08 nm)を供給している.共同利用は,ほぼSPring-8と同様な課題審査システムによって進められているが,光源の特性から, 1シフトは12時間として運用している. 2012年には,調整時間を含む総運転時間を7000時間とし,そのうち3000時間を6日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)