ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

SACLAができるまでンチを作ることは一見矛盾があるように思えるが,その「からくり」については,新竹による非常に明解な解説4)があるので参考にしていただきたい.原子や分子のエネルギー準位を利用する従来のレーザーには,発振波長にさまざまな制限があるのに対して,FELでは原理的には任意の波長で発振させることが可能である.しかしながら,高エネルギー加速器が絡むFELは放射線発生装置であり,普通のレーザーに対するものと比較したら桁違いに厳しい規制の下で運用する必要がある.このため,普通のレーザーでカバーできる領域でのFELは,有用ではあるものの不可欠なものではなかった.それに対して,硬X線領域のコヒーレント光発生は,現時点でFELがわれわれの知っている唯一の解である.このため, 1990年代の中頃から欧米でSASE型のX線FEL(XFEL)施設建設計画が議論され,ヨーロッパではDESYのEuropean XFEL Facility 5)に,またアメリカではSLACのLinac Coherent Light Source(LCLS)6)に収束していった.またこれらの計画は,ドイツとアメリカで高エネルギー物理学の大きな拠点であったDESYとSLACがフォトン・サイエンスを中心とした研究所に転換する端緒となった.ヨーロッパやアメリカで, SASE-XFEL施設建設が盛んに議論されていた1990年代の終盤には,われわれはSPring-8の立ち上げに忙殺されており,とても新しい光源を議論する余裕はなかった.一方でこの状況の下で1999年に出された学術審議会特定研究領域推進分科会加速器科学部会報告には,「近年, X線自由電子レーザーが将来の第四世代光源として注目を集めている.この開発のため,高エネルギー加速器研究機構を中心にした関係研究機関,大学の連携・協力により基礎研究を推進する必要がある」と記載されている. 7)しかしながら,高エネルギー加速器研究機構はその後,日本原子力研究機構とともにJ-PARC建設に乗り出し,またKEK-B計画を進めていたため,放置しておけばXFEL開発で日本が置き去りにされる状況が生じた.このため,理化学研究所播磨研究所では, 1 kmビームライン8)と27 mアンジュレータビームライン9)の建設の見通しがついた2000年から硬X線領域でのSASE-XFELの検討を開始した. 2001年度からの開発研究開始を目指して,各所に説明にいったが,当時の文部科学省幹部には「自由電子レーザー」=「役に立たない光源」という図式がこびりついており,従来の自由電子レーザーとは違うものであることを理解していただくのに時間がかかったが,最終的に2001年度からの研究開発予算が認められ,正式にスタートすることになった.また,予算獲得に至るまでの検討成果をベルリンで開催されたSRI2000で報告したところ,スイスのPSIの人たちが随分と興味をもったようで,根掘り葉掘りの質問があった.スイスが後にSASE-FEL建設に乗り出す一因がここにあったようだ.日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)3.コンパクトSASE光源SPring-8での1 kmビームラインで,弱いながら空間的コヒーレンスが高いX線の利用を展開し,また27 mアンジュレータビームラインでXFELに必要な長尺アンジュレータの建設を経験したわれわれには,当時XFELを計画中であった米国やヨーロッパからしばしば技術検討会議への出席要請が届いた.それらを,アンジュレータを担当していた北村英男主任研究員と筆者で分担してこなしていたが,帰ってきてからの両人の一致した感想は, SPring-8で培った技術を投入すれば,欧米よりずっと小型で高性能のXFELができるのではないかというものであった.すなわち, SPring-8で開発された真空封止型アンジュレータを用いると,磁極間隔を狭めることが可能である.すると,磁場周期が短くても,電子ビーム位置に十分な磁場を作ることができる.磁場周期を短くすることができると,低いエネルギーの電子ビームで短波長X線を出すことが可能となる.このようにして, X線自由電子レーザーの小型化が可能となるが,これは第三世代X線放射光施設が初期のESRF, APS, SPring-8といった6~8 GeVの電子蓄積リングで始まり,アンジュレータの進歩によって次第に小型化して, 3 GeV程度の電子蓄積リングで可能になったのと,まったく同じ道程を辿るものである.しかし,欧米のX線自由電子レーザーと比較して半分程度の低エネルギー電子ビームで欧米と同等の硬X線自由電子レーザーを実現するためには,より精細な電子ビーム制御を行う必要がある.これは低エネルギーでは相対論的効果によるクーロン反発の減少が少ないためである.この部分の検討を当時KEKでCバンド加速管を開発した新竹積博士に依頼したところ,熱電子銃とベロシティ・バンチングを組み合わせた入射部に, Cバンド線形加速器を組み合わせるという,当時としては画期的な案を出してきた.このこともあり, 2001年に新竹博士を理研の主任研究員として招聘したうえで, 2005年までに1 GeVの線形加速器をベースとして,ウォーター・ウィンドウ領域の軟X線自由電子レーザーを建設する計画を策定し,理研内部での研究開発を開始した.SASE原理によってコヒーレント光を作るためには,アンジュレータ内での電子と光の相互作用を用いるため,非常に密度の高い電子バンチを作る必要があり, 100フェムト秒幅のパルスに1 nCに近い電荷量の電子を詰め込むことが必要とされていた.われわれが開発を始めるまでは,このような高密度電子バンチはレーザーRF電子銃によって作ることが常識とされ, LCLSもEuropean XFELもその方式を採用している.これは,短パルスレーザー照射によって短パルス高密度電子バンチを生成し,それがクーロン反発で広がらないうちに加速してしまうものである.それに対して,われわれがとった方式は,まず単結晶CeB 65