ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No1

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日本結晶学会誌Vol56No1

特集:新時代の結晶学-X線自由電子レーザー日本結晶学会誌56,4-8(2014)SACLAができるまで㈱独理化学研究所放射光科学総合研究センター石川哲也Tetsuya ISHIKAWA: Early Days of SPring-8 Angstrom Compact Free-Electron Laser(SACLA)SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser(SACLA)is the world second X-ray laserwhich started user operation in 2012. As an introduction of the special issue, here we showhow the SACLA project got started. While originated as a tiny R&D program within RIKEN,the SACLA project has been grown to one of the five National Key Technology projects inJapan. SACLA is the first step of the Compact X-ray free electron laser. Further downsizingof the facility is envisaged.1.はじめにX線自由電子レーザーSACLA(SPring-8 AngstromCompact free electron LAser)は,平成18年度から22年度の間の,国の第3期科学技術基本計画の中で,「国家基幹技術」として約390億円の建設予算で整備された先端基盤分析機器であり,大型放射光施設SPring-8に隣接して建設されSPring-8と同様な一般共用運転が行われている.硬X線領域の自由電子レーザーとしては,米国SLAC国立加速器研究所のLinac Coherent Light Source(LCLS)に次いで,世界で2番目の施設であるが, LCLSの最短波長が0.12 nmであるのに対して, SACLAは0.063 nmと,世界で初めて0.1 nm(1A)の壁を破ったレーザーである.SACLAは2011年3月にハードウェアとして完成し, 2カ月あまりの試験調整を経て, 6月にレーザー発振を観測した.図1 SACLA全景.(A bird’s-eye view of SACLA.)SACLAの全長700 mの建物は, SPring-8(手前左の円弧状に見える建物)に隣接して建設された.線形加速器で電子は右奥から左手前に向けて加速され,その方向にX線レーザー光を出す.その後,光源としての試験調整を重ねるとともに,実験装置の調整作業を進め, 2012年3月には共用運転を開始している.結晶学会誌の本特集号では, SACLAの近況をそこでの研究開発を牽引している先生方からご紹介することになっている.本稿ではこの計画に最初から関与した者の役目としてSACLA完成に至るまでの経緯をご紹介したい(図1).2.自由電子レーザーレーザーを短波長化してX線領域にもち込むことは,1960年のレーザー出現1)以来にわたり光科学の大きな到達目標であった.筆者も今から四半世紀も前の大学院生の頃Madeyの自由電子レーザー(FEL)の論文2)を輪講で取り上げX線への拡張に関して論じたことがある. Madeyの自由電子レーザーは低エネルギー蓄積リングにアンジュレータを挿入し,それを挟んでミラーによる共振器を構成し,共振器内の光電場でアンジュレータを通る電子バンチを変調してマイクロバンチを発生させ,それらをアンジュレータの中でコヒーレントに運動させることによりコヒーレント赤外光を発生させるものであった.短波長X線への拡張のために,蓄積リングのエネルギーを上げ,さらに共振器を構成するミラーとして完全結晶のブラッグ反射を利用することを検討したが,反射率の低さから,よほどのブレークスルーがなければレーザー発振は困難というのが当時の結論であった. 1980年代半ばに自己増幅自発放射(Self-Amplified Spontaneous Emission;SASE)型自由電子レーザーの原理3)が発表された.これは,ミラーで共振器を構成する代わりに,長いアンジュレータによって,電子ビームのマイクロバンチを形成し,アンジュレータの中でコヒーレントに運動させることによって,コヒーレントな光を発生させるものである.進行方向に対して横波である電磁波が,進行方向に電子を動かしてマイクロバ4日本結晶学会誌第56巻第1号(2014)