ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

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日本結晶学会誌Vol55No5

SrTiO 3(110)基板上に成長させたBaTiO 3薄膜における特異な構造ては,図1に示したとおりバルクの斜方晶相があげられる。しかしながらバルクの斜方晶構造の分極方向とBTO薄膜の分極方向は明らかに一致しておらず, BTO薄膜がバルクでは発現しない非常に特異な構造を有していることがわかる.(110)配向のエピタキシャルBTO薄膜に対しては, Guiらが第一原理計算によって温度-二次元歪みに対する相図を提案している. 11)彼らの相図によれば, STOのようにBTOより小さな格子定数をもつ基板に対しては二次元的な圧縮歪みが加わり,分極ベクトルが面直方向,つまり[100]pCを向いた構造が安定となる.この構造は,やはりバルクのBTOでみられる斜方晶構造と対応している.しかしながら本研究においては,分極方向は面直から傾いた方向を向いていることがドメイン構造解析から明らかであり,この分極方向はむしろバルクの正方晶のものと近い.この矛盾は, Guiらの第一原理計算においてはBTOの(100)pCおよび(11 _ 0)pC面の面間隔とSTOのそれらの面間隔が一致しており,二次元的な歪みを仮定していることにある.本研究においては,(001)pC面の面間隔がバルクよりも小さく,[001]pC方向に対しては圧縮応力を受けているのに対して,(11 _ 0)pC面の面間隔はバルクよりもむしろ大きく,この方向についてはほとんど応力を受けていない.つまり, Guiらの計算は面内に対して等方的な応力が仮定されているのに対して,本研究におけるBTO薄膜は異方的な緩和が起きていることにより, STO基板から単軸性に近い応力を受けていることが結晶構造の違いを生み出している.このようなBTO薄膜における擬正方晶構造はドメイン構造にも影響を与えている.前述のとおり,図5cに現れている不規則なドメイン境界は,[1 _ 00]_ pCと[01 0]pC方向に分極をもつドメイン間の境界であり90°ドメイン壁である.通常このような不規則なドメイン壁は180°ドメインの境界において観測され, 90°ドメイン壁は直線的な形状を示すことが多い.これは90°ドメインは弾性ドメインであるため,ドメイン境界における弾性エネルギーを最小にするために特定の面がドメイン壁となるためである.それに対して,図6bのXRD逆格子マッピング測定の結果は,本研究のBTO薄膜の(001)pC面内における異方性がバルクと比べて非常に小さいことを示しており,これは180°ドメインの状況に非常に近い.同様の曲線的な90°ドメイン壁は,強誘電性に伴う自発歪が小さいBi系層状ぺロブスカイト強誘電体においても観測されており,特にSr 2BiNb 2O 9に関してはフェーズフィールド法によるシミュレーションによってドメイン形成に関する理論的な説明がなされている. 12)この計算によれば,強誘電体における自発歪みが小さい場合,ドメイン形成のエネルギーに対して弾性エネルギーがほとんど寄与しないことが示されている.日本結晶学会誌第55巻第5号(2013)3.一軸性応力下におけるBTO薄膜の強誘電相転移次に,一軸性の応力が強誘電相転移にどのような影響を与えるのかという問題を考えてみたい。この点について調査を行うためにSTO(110)基板上に成長させたBTO薄膜に対して高温X線回折実験を行った.図7bに面直方向(220)pC面の面間隔の温度依存性を図7bに示した.高温領域で熱膨張によって線形的に格子定数が変化するのに対して, 550 K付近から線形変化から逸れ始める.この挙動は強誘電相転移の存在を示唆している.前節で述べたとおり,(110)STO基板上に成長させたBTO薄膜は, BTO薄膜の(110)pC面が基板の(110)面に対して傾いて成長していると考えられる.この結晶構造の傾きは強誘電相転移に伴うドメイン形成によるものと考えられるため,相転移前後において傾きの様子が変化すると考えられる.この変化を調べるため,ロッキングカーブの温度依存性について調査を行った.図7bにロッキングカーブの半値全幅の温度依存性を示す.[001]pC軸方向に対するロッキングカーブの半値全幅は,全温度領域において0.3°~0.35°程度であり,顕著な温度依存性を示していない.それに対して,[11 _ 0]pC軸方向に対するロッキング図7 STO(110)上のBTO薄膜の高温X線回折測定結果.(Results of high temperature X-ray diffraction measurementsof BTO film on STO(110).)(a)BTO薄膜の面直(110)pC面の面間隔に対する温度依存性.(b)[100]pC(赤)および[11 _ 0]pCC(青)スキャンに対する(220)pC反射のロッキングカーブ半値全幅の温度依存性.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.293