日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 65/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

クリスタリットラメラLamella高分子は,溶液中あるいは融解状態では規則性のないランダムコイルの状態をとっている.この状態から結晶化すると,分子鎖が約5~10 nmの周期で規則正しく折りたたまれたラメラ(板状)結晶が成長する.ラメラ結晶の厚さは,結晶化温度が高いほど増加する傾向にある.一方,ラメラ結晶の大きさは数~数十μmであり,分子鎖の折れたたみ方向により長方形,菱形,三角形などさまざまな形状を採る.希薄溶液から成長させると,ラメラ結晶が独立して成長した単結晶が透過型電子顕微鏡などで観察される.高分子鎖はこのラメラ結晶面に垂直に折りたたまれているが,ラメラ結晶表面における分子鎖の折れ曲がり方向や規則性についてはポリマーによっても異なり,さまざまなモデルが提案されている.一方,溶融状態から成長させるとラメラ結晶が集まったロッド結晶を形成し,そのロッド結晶が三次元的に成長した球晶となる.(東京大学大学院農学生命科学研究科岩田忠久)ポリエチレン真空蒸着Polyethylene Decoration高分子のラメラ結晶表面では,分子鎖は規則正しく折りたたまれていると考えられているが,折りたたみ構造を直接観察した報告例はない.そこで,ラメラ結晶表面に低分子量のポリエチレンを真空蒸着することにより(デコレーション法),分子鎖の折りたたみ構造を,透過型電子顕微鏡を用いて間接的に観察する方法が用いられている.低分子量のポリエチレンは,ラメラ結晶表面において,分子鎖の折りたたみ周期の間に蒸着されるため,縞状に観察される.分子鎖の折りたたみ方向は,蒸着されたポリエチレンの縞に垂直に生じていると考えられている.(東京大学大学院農学生命科学研究科岩田忠久)遊離システイン残基Free Cysteine Residueシステイン残基は,側鎖に求核性の高いチオール基をもつアミノ酸で,細胞外環境では2組のチオール基のカップリングによる共有結合すなわちジスルフィド結合を形成してタンパク質の構造安定化に寄与している.遊離システイン残基とは,このジスルフィド結合に関与していないシステイン残基のことを示し,生体内での生物学的な機能や構造,安定性に寄与している.例えば,システインプロテアーゼやチオレドキシン,ペルオキシレドキシンなどの酵素ではシステイン残基は活性中心として作用するのに対し,種々の調節タンパク質に存在するシステイン残基は, S-ニトロシル化やS-グルタチオン化のような化学修飾を伴った分子スイッチとして作用する.一方,システイン残基のもつ疎水的な日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)性質が,疎水性コアの形成にかかわってタンパク質構造を安定化している.(大阪大学蛋白質研究所仲庭哲津子)マキシマムエントロピー法(MEM)Maximum Entropy Method(MEM)マキシマムエントロピー法(MEM)は,逆問題を解くときに,逆関数を使用しないで実験より得られる不完全なデータ(離散データ)から,実験事実に合致している中で,エントロピーを用いた評価関数が最も高い解を得る統計学的手法である. MEMを粉末や単結晶の構造解析におけるフーリエ逆変換問題に応用することによって,限られた数の構造因子から精密な電子密度分布を求めるための強力な手法として利用されている.打ち切り効果のない合理的でノイズの少ない高分解能電子密度分布を得ることが可能となる.金属内包フラーレンやMetal OrganicFrameworkのナノ細孔に吸着した気体分子の電子密度可視化において実績があり,タンパク質のような巨大分子への応用も行われている.(高輝度光科学研究センター利用研究促進部門水野伸宏)MEM電子密度ヒストグラム解析Histogram Analysis withMEM Electron-Density(H-MED)打ち切り効果のない合理的な高分解能電子密度分布を得ることが可能となるマキシマムエントロピー法(MEM)の効果を利用し,結晶構造解析によって得られた電子分布をヒストグラム化し,解析する手法.類似の構造をもつ分子間の電子密度分布の差をヒストグラムとして解析することで,対象とする分子間に起こった構造変化や構造の差違を明らかにするものである.曖昧な構造の変化も分布の変化として捉えることが可能であり,揺らぎによりモデル化が困難な電子密度分布を評価する際に有用である.(高輝度光科学研究センター利用研究促進部門水野伸宏)アルカリ金属内包フラーレンAlkali Metal Endohedral Fullereneリチウムなどのアルカリ金属原子を分子内に内包した,かご状の炭素分子(フラーレン)の総称.初期には気相のC 60分子にアルカリイオンビームを衝突させることで生成された(イオンインプランテーション).その後, C 60蒸着膜へのアルカリイオンビーム照射により生成のスケールアップがなされた.近年では,アルカリイオンプラズマを利用する方法(プラズマシャワー法)の開発により,工業的な大量生産が可能になりつつある.この方法では,高温のホットプレート上で大量に発生した高密度のアルカリイオンプラズマを, C 60の蒸気とともに基板上に照射することで,高効率にアルカリ金属内包フラーレンを生成する.(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科青柳忍)231