日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 64/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

クリスタリット抗体工学Antibody Engineering膜タンパク質Membrane Protein細胞を構成する生体膜に結合した形態で存在するタンパク質の総称である.特に,生体膜表面に結合したタンパク質を表在性膜タンパク質(peripheral membrane protein)と呼び,生体膜を貫通する構造をもつタンパク質を貫通型膜タンパク質(transmembrane protein)と呼ぶ.膜タンパク質の主な機能は,細胞外の情報受容および細胞内への伝達,イオンチャネル,栄養物の取り込みや不要物の排出などの物質輸送,生体膜を介したイオン勾配を作り出すエネルギー変換などであり,生命現象の担い手としてのみでなく,創薬の主要なターゲットとして重要である.膜タンパク質の結晶構造解析は困難であると認識されてきたが,脂質キュービックフェーズ法などの技術革新により,年々構造決定される膜タンパク質の数は増えつつある.(鳥取大学大学院工学研究科日野智也)結晶化技術Methods for Crystallizationタンパク質の結晶化は,高純度に精製したタンパク質の濃縮液と,適切な沈殿剤溶液を混合することで行う.しかしながら,どのようなタンパク質でも容易に結晶化できるというものでもない.特に,生体膜貫通領域を含む膜タンパク質や,機能発揮にダイナミックな動きを伴うようなタンパク質,あるいは揺らぎの大きな領域を含むタンパク質などでは,構造決定に適した結晶が得られないことが多い.このような場合に,さまざまな結晶化技術を駆使し,良質な結晶の作製を目指す.具体的な結晶化技術としては,レーザー照射による結晶核の形成,結晶化溶液の攪拌や磁場中あるいは宇宙空間を利用した微少重力下での良質結晶作製法などがあげられる.また,膜タンパク質では,三次元的に連続な脂質二重膜環境下で結晶化を行う脂質キュービックフェーズ法や,結晶化の相互作用領域を拡張させるための抗体利用などの結晶化技術を用いることが多い.(鳥取大学大学院工学研究科日野智也)抗体は,高い親和性と特異性でタンパク質や低分子化合物などの抗原に結合するタンパク質である.抗体のこの優れた性質は,分子生物学や生化学などの基礎研究分野のみならず,抗体医薬としての産業応用など幅広い領域で活用されている.抗体工学は,このような抗体の特性を活かしつつ,タンパク質工学的に抗体分子を改変し,抗体分子の大量生産,抗原への親和性の向上,マウス抗体のヒト化や抗体分子の安定性向上など,既存の抗体についてあらたな機能の付与あるいは高機能化を目的とする学問分野である.(鳥取大学大学院工学研究科日野智也)リチウムイオン二次電池Lithium-Ion Rechargeable Battery現在,軽量かつ高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は,さまざまな製品に組み込まれ急速に普及している.リチウムイオン二次電池では,リチウムイオンを可逆的に挿入・脱離可能な材料が正極および負極に用いられ,充放電時にリチウムイオンが電解液を介して行き来する.放電時に正極は電子を受け取る還元反応(リチウムイオン挿入反応),負極は電子を放出する酸化反応(リチウムイオン脱離反応)が起こり,充電時はこの逆反応が起こる.リチウムイオンの挿入・脱離に対する可逆的な充放電サイクル安定性は,結晶構造に起因する部分が大きく,現在市販されているリチウムイオン二次電池では正極に,層状岩塩型構造のLiCoO 2,スピネル型構造のLiMn 2O 4,オリビン型構造LiFePO 4など,負極に層状構造のグラファイト,スピネル型構造のLi 4Ti 5O 12などが主に用いられている.(㈱独産業技術総合研究所片岡邦光)負極材料Negative Electrode Material電池における負極材料は,正極材料に対し酸化還元電位が低い材料である.リチウムイオン二次電池では,負極材料は主に正極から脱離されるリチウムイオンを吸蔵する側である.現在広く普及しているリチウムイオン二次電池には,グラファイトが用いられているが,近年,酸化物材料Li 4Ti 5O 12も,安全性が高く,低温特性に優れ,充放電サイクル寿命が長いため実用化されている.しかしLi 4Ti 5O 12はグラファイトと比較して容量が小さいため,高容量かつ長寿命の次世代材料として新規Ti系酸化物材料, Sn系合金およびSi系酸化物などの研究開発が行われている.(㈱独産業技術総合研究所片岡邦光)230日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)