日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 62/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

北所健悟,西村昂亮,神谷重樹,堀口安彦膜表面のコレステロールをターゲットとして細胞に結合し,細胞膜上に孔を形成して膜を破壊する. 33),34) PFOはCDC familyで最初に構造決定された毒素で, 34)その結晶構造は図5Aのようになっている.そこでCPEのモノマーとPFOを構造比較した.PFOのモノマー構造は4つのドメインから構成されており, D1が多量体化を引き起こすドメイン, D3が細胞膜への孔を形成するドメイン, D4が受容体結合ドメインであることが明らかにされている. 33),34) CPEモノマー構造とPFOモノマー構造の共通点は,膜孔形成領域がα-helixを形成している点と,モノマーの中心に長く伸びた逆平行β-sheetが存在していることである. CPEとPFOのもつ長い逆平行β-sheetの長さはそれぞれ約60 A,約42 Aである.PFOの結晶構造を基に, cryo電子顕微鏡による観測と分子モデルリングの組み合わせで, PFOの膜孔形成機構が解明されている. 33),34)この膜孔形成機構は,まずPFOモノマー分子が細胞膜上の受容体であるコレステロールに結合し,多量体を形成した後,長く伸びた逆平行β-sheetを折り曲げる.次いでα-helixを形成している膜孔形成領域が,β-sheetに構造変化して細胞膜に挿入されることにより,巨大なβ-バレル孔を形成するという機構である.この作用機構は, PLYやリステリア菌由来の膜孔形成毒素であるListeriolysin O(LLO),でも同様に考えられている機構である. 32),35)また最近,同様に電子顕微鏡構造と結晶構造に基づいて,細胞障害性T細胞(CTL)やNK細胞が産出するPerforinもその膜孔形成メカニズムが明らかとなっている. Perforinは,細胞に孔をあけて細胞を溶解する活性を有し,アポトーシスに関与していることがわかっている. 36)また構造解析の結果, PLYと非常によく似た構造をとっており,膜孔形成過程も類似のメカニズムであることが示唆されている.このように進化の過程で細菌毒素と真核生物のタンパク質がよく似たメカニズムをもっている非常に興味深い例である.さてここでCPEの構造を見ると, CPEにも同様に長く伸びた逆平行β-sheetがモノマーの中心に存在している.CPEのもつ逆平行β-sheetは,ドメイン2と3を繋いでいる.そこで,このトポロジーがPFOと共通であることから, PFOでの大きな構造変化によるβ-sheetの挿入機構を参考に, CPEの膜孔形成メカニズムを次のように仮定した.まずCPEは,細胞膜上のCldn受容体へ結合し, Preporeと呼ばれる多量体を形成する.その後,ドメイン2と3の裂け目を軸に,逆平行β-sheetを折り曲げることにより,ドメイン2の膜孔形成領域を細胞膜に挿入することで孔を形成することが示唆された(図5B). CPEの場合はPFOのような巨大β-バレル孔は形成されず,電気泳動などの結果から, 6~7量体の多量体になることがわかっている. 16)しかしながら,α-helixからβ-sheetへの大きな構造変換による膜への侵入機構は類似するものであると考えられる.以上のように, aerolysin like toxin, PFOとの構造比較から, CPEはβ-PFTとしての構造的な特徴を数多く有していることが明らかとなった.これらのことからCPEは,PFOと同様の作用機構で構造変化を起こし,細胞毒性を発揮することが考えられた.またCPEと類似の構造を有するaerolysin like toxinも同様のメカニズムで構造変化を起こし,細胞へ機能する可能性が示唆された.今回得られた不活型のコンフォメーションであったが, CPEが膜状で活性型のコンフォメーションをとると考えられていることから,今後は,リポソーム存在化での結晶化37)や,Cubic phase(LCP)法による結晶化38)を行い,構造変化した活性型つまり膜孔形成タイプの構造解析に着手する予定である.謝辞この研究を行うにあたり,回折データ測定の際にお世話になったSPring-8のBL44XUのスタッフの皆様, R-AXIS7を使用させていただいた京都工芸繊維大応用生物部門の原田先生,的場博士に感謝いたします,文献1)桜井純,本田武司,小熊恵二(編):細菌毒素ハンドブック(サイエンスフォーラム社).2)J. L. McDonel: Pharmacol Ther. 10, 617 (1980).3)B. A. McClane, A. P. Wnek, K. I. Hulkower and P. C. Hanna:J. Biol. Chem. 263, 242 (1988).4)A. P. Wnek and B. A. McClane: Infect. Immun. 57, 574 (1989).5)E. U. Wieckowski, A. P. Wnek and B. A. McClane: J. Biol. Chem.269, 10838 (1994).6)Y. Horiguchi, T. Akai and G. Sakaguchi: Infect. Immun. 55,2912 (1987).7)P. C. Hanna, T. A. Mietzner, G. K. Schoolnik and B. A. McClane:J. Biol. Chem. 266, 11037 (1991).8)J. F. Kokai-Kun, K. Benton, E. U. Wieckowski and B. A. McClane:Infect. Immun. 67, 5634 (1999).9)C. M. Van Itallie, L. Betts, J. G. 3 rd Smedley, B. A. McClaneand J. M. Anderson: J. Biol. Chem. 283, 268 (2008).10)N. Sonoda, M. Furuse, H. Sasaki, S. Yonemura, J. Katahira, Y.Horiguchi and S. Tsukita: J. Cell Biol. 147, 195 (1999).11)J. Katahira, N. Inoue, Y. Horiguchi, M. Matsuda and N. Sugimoto:J. Cell Biol. 136, 1239 (1997).12)Y. Horiguchi, T. Akai and G. Sakaguchi: Infect. Immun. 55, 2912(1987).13)A. Takahashi, E. Komiya, H. Kakutani, T. Yoshida, M. Fujii, Y. Horiguchi,H. Mizuguchi, Y. Tsutsumi, S. Tsunoda, N. Koizumi, K. Isoda, K. Yagi,Y. Watanabe and M. Kondoh: Biochem. Pharmacol. 75, 1639 (2008).14)M. Harada, M. Kondoh, C. Ebihara, A. Takahashi, E. Komiya,M. Fujii, H. Mizuguchi, S. Tsunoda, Y. Horiguchi, K. Yagi andY. Watanabe: Biochem. Pharmacol. 73, 206 (2007).15)C. Ebihara, M. Kondoh, M. Harada, M. Fujii, H. Mizuguchi, S.Tsunoda, Y. Horiguchi, K. Yagi and Y. Watanabe: Biochem.Pharmacol. 73, 824 (2007).16)J. G. 3 rd Smedley, F. A. Uzal and B. A. McClane: Infect.Immun. 75, 2381 (2007).17)K. Fujita, J. Katahira, Y. Horiguchi, N. Sonoda, M. Furuse and228日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)