日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 61/82

電子ブックを開く

このページは 日本結晶学会誌Vol55No3 の電子ブックに掲載されている61ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

食中毒を引き起こすウェルシュ菌エンテロトキシンCPEの構造生物学的研究る. 28),30) CPEのD3には多量体化に必須であるAsp48が含まれていた.このことから, CPEのD3はaerolysinでのD4,ETXのD3と同様に多量体化になるドメインとして機能すると考えられる.また,それぞれのD2(aerolysinでのD3)には図4Aに示すように膜孔形成領域が含まれており,この領域は疎水性残基と親水性残基が交互に並ぶ配列をしていた(図4B). CPEではVal81~Ile106が膜孔形成領域であり,この領域を含んだアミノ酸配列をほかの膜孔形成毒素の配列と図4Bで比較した.すでに孔形成状態の構造が解かれたβ-PFTであるα-hemolysinでも観測されているこの配列は,β-sheetを形成することで細胞膜側に向ける疎水性領域と膜孔の内側となる親水性領域を作ることが可能となる(図4C). 21)このことからCPEは,膜孔形成領域を含むα-helixをβ-sheetに構造変化させることによりβ-PFTとして機能し, aerolysinと同様の機構で膜孔を形成すると考えられた(図4C).以上の構造比較から, CPEはaerolysin, LSL,およびETXと同様に受容体結合ドメイン,膜孔形成ドメイン,多量体化ドメインの3つのドメインで構成され,構造の類似性から,これらのALTFと同様の機構で細胞膜に孔を形成すると考えられた.さらなる共通点として, CPEとALTFにはD2からD3(aerolysinでのD3からD4)にかけて伸びる長い逆平行β-sheetが存在した.これは,過去に電子顕微鏡により多量体化から膜孔形成までの機構が解明されたβ-PFTであるPneumolysinに見られる特徴であり, 31),32)多量体化から細胞膜への孔形成に至るまでに重要な役割を担っていた.4.3 Perfringolysin Oとの構造比較次に別のタイプのβ-PFTであるCholesterolを受容体とするCholesterol-dependent cytolyin(以下CDC)familyとの構造比較を行った. Perfringolysin O(以下PFO)やPneumolysin(以下PLY)は,コレステロール結合性の細胞溶解毒素に属するβ-PFTである. PFOならびにPLYは,電子顕微鏡構造と結晶構造から,詳細な構造変化とその膜孔形成のメカニズムが提言されている.ウェルシュ菌が産生するPerfringolysin O(以下PFO)は,細胞を破壊し,ガス壊疽を発症させる病原因子の1つで, 1)コレステロール結合性の細胞溶解毒素に属し,動物細胞の図4 CPEとAerolysin-like-toxinファミリーとの構造比較.(Structural similarities between CPE and Aerolysin-liketoxinfamily.)A:AEL, ETX, LSL, CPEのモノマー構造.各モノマーのD1, 2, 3, 4を色違いで示した.膜孔形成領域はD2近傍(AELではD3)の中央部分に色違いで表す. B:AEL, ETX, LSL, CPE,α-Hemolysinの膜孔形成領域のアミノ酸配列の比較.数字はアミノ酸残基の番号を示す. C:α-HemolysinとCPEとaerolysinの膜孔形成状態の模式図.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図5PFOとCPEの膜孔形成メカニズム.(Comparison ofstructure between CPE and PFO and a putative modelshowing how the toxin molecules are folded toinsert the antipathic strands into the membrane.)A:CPEとPFOのリボンモデル図. B:PFOの膜孔形成機構に基づくCPEの侵入機構.227