日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 60/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

北所健悟,西村昂亮,神谷重樹,堀口安彦は先の重原子結合サイトであり,そのグルタミン酸クラスターの中心にカルシウムと考えられる電子密度が存在したことから,この3量体の中心が,細胞毒性を発揮する際のカルシウムの通り道であると考えられた.しかし今回得られた3量体構造では,多量体化に必要であるAsp48を介したCPEモノマー間の相互作用が確認できなかった.すでに孔形成状態が観測されたβ-PFTであるα-Hemolysinの結晶構造と比較すると, 21)細胞膜に差し込んでいるα-Hemolysinの孔形成領域は長さが52 Aであり,その細胞膜に向けた表面は疎水性領域を形成していた. 21)これに対してCPEは, 3量体構造自体の高さが52 Aで,その表面は親水性領域を形成していた(図3B).そこで, CPEの3量体形成に必須であると考えられるGlu94とGlu110の変異体(各々, Asp, Gly, Gln, Tyr, Leu変異体)を作製し,活性を確認したところ,いずれの変異体も野生型と変化が見られず,したがってこれら2つのグルタミン酸は毒素活性とは関係がないことがわかった. 20)よってこの3量体の中心にある溝はカルシウムの通り道ではなく,今回得られた3量体構造は細胞毒性を発揮する活性型の構造ではなく,結晶中でのみ形成されている構造であると考えられた.4.膜孔形成毒素の構造4.1β-Pore-forming toxin(β-PFT)との比較膜孔形成毒素(Pore-forming toxin:以下PFTと略す)とは細胞膜に孔を形成し,細胞死を誘発する毒素タンパク質のことである. PFTの特徴としては,細菌などから分泌された段階では可溶化状態として存在するが,標的細胞に取り付くと細胞膜に孔を形成する膜タンパク質となる.可溶化状態から膜孔形成状態への遷移には大きな構造変化を伴い,細胞膜内部で安定に存在できるように疎水的な領域を形成し,膜貫通型タンパク質となる.現在までに多くのPFTの結晶構造が解かれており,その一次,二次,三次,四次構造は大きく違っているが, PFTは,その二次構造上の特徴から,α-helix型のα-PFTとβシート型のβ-PFTの2つに分類することができる.しかしながら,大半はβシート型のβ-PFTである.α-PFTとして構造解明されたサルモネラ菌由来のCytolysin A(PDB ID:2wcd)は,細胞膜に孔を形成する際に,α-helixの束を細胞膜に差し込む. 22)これによく似た構造は,赤痢菌毒素分泌装置ニードルの立体構造にも見られる. 23)一方,β-PFTとは,β-sheetを束ねることによりβ-barrel構造を細胞膜内部で形成するPFTのことを指す. 21)α-hemolysin(PDB ID:7ahl)などに代表されるβ-PFTの特徴としては,β-sheetに富む傾向にあること,細胞膜と相互作用する膜孔形成領域は疎水性残基と親水性残基が交互に並んだ配列を有していることである. 21)しかしながら,β-PFTに関する細胞膜へのペプチド鎖の挿入機構はあまり解明されていない.今回, CPEの全長構造の解明によって,今まで知られている2つのタイプのβ-PFTとCPEとの構造比較によって,膜孔形成のメカニズムを解明することができた. 20)4.2 Aerolysin-like toxin family(ALTF)との構造比較βシートに富んだ構造を有するCPEモノマーは,β-PFTに特徴的な細長い立体構造をとっていた.すなわち頭部にレセプター結合ドメインをもち,そこから膜孔形成領域が伸びた形で存在している. CPEはCDスペクトルでの80%のβシート含量や, 24)膜孔形成領域に疎水性残基と親水性残基が交互に並ぶ配列を有していることから,β-PFTに所属すると考えられていたが,今回決定した構造からも明らかとなった. 20)そこでCPEのモノマー構造に関して,すでに構造決定されたβ-PFTとの構造比較を行った.構造比較の対象としたのは,すでにモノマー状態の構造が決定されているβ-PFTであるaerolysin like toxin family(以下, ALTFと略す)と比較した.このALTFは, aerolysinを代表とするβ-PFTのグループであり,このうちのaerolysin, 25) Clostridiumperfringensε-toxin(以下, ETX), 26)およびLaetiporussulphureus hemolytic pore-forming lectin(以下, LSL)27)と比較したものを図4Aに示している.いずれの毒素も図の上部に受容体結合ドメインがあり,中心に特徴的な長いβストランドをもつ長く伸びたような長いトポロジーをとっている.興味深いことに,どの毒素も構造の真ん中あたりに,構造変化を起こして膜孔を形成するフレキシブル領域があると考えられている. Aerolysinは,β-PFTとして初めてモノマー構造が決定された分子で, GPIアンカー型タンパク質を受容体とし, 4つのドメインで構成されている. 28),29) ETX, LSLは,その構造と機能の相関からALTFに所属するβ-PFTで,それぞれ膜タンパク質,およびN-アセチルラクトサミン複合糖鎖を含む物質を受容体としており,ともに3つのドメインで構成されている. 26),27) CPEは,ALTである上記のβ-PFTと同様に3つのドメイン(aerolysinは4つのドメイン)で構成されていた(図4).このことからCPEと上記のβ-PFTの各ドメインに関する比較を行った.CPEのD1ドメインは, ALTFのD1(aerolysinのD1, D2)と同様に受容体結合領域を有していたが,このドメインは各々異なる構造をとっていた.この構造の違いは,それぞれの受容体の違いによるものだと考えられた.一方, D2,D3(aerolysinでのD3, D4)はCPE, ALTFともにβ-sheetに富む非常に似た構造をしていた.共通の特徴としては,CPEとALTFのD3(aerolysinでのD4)が, 5本または7本のβ-strandで構成されたβ-sandwich構造を形成していたことである. AerolysinでのD4, ETXのD3は,プロテアーゼ処理によりプロセッシングされて活性化し,膜結合型となって多量体化を引き起こすことが解明されてい226日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)