日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 6/82

電子ブックを開く

このページは 日本結晶学会誌Vol55No3 の電子ブックに掲載されている6ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

坂田修身ける蛍光強度の変調の観察と動力学的X線回折理論に基づく解釈, 13)高真空槽内のシリコン単結晶のブラッグ回折条件近傍における光電子強度測定, 14)さらにその研究を進め波動場の非対称因子の影響の測定15)など.このX線波動場を利用して構造を解析する方法はX線定在波(XSW:X-ray standing wave)法と呼ばれる.その研究例を紹介する:GaP単結晶の(111),(1 _ 1 _ 1 _)の極性の違いによる波動場の変化の観測, 16) NiSi 2/Si(111)の界面構造解析, 17)軟X線を用い波動場によってInPから励起された電子の強度の入射エネルギー依存性, 18)軟X線を用いた硫黄で不動態化表面処理したGaAs(111)の化学状態分析, 19) XSW法と同じ構造情報を与える角度分解コッセルライン法20)など.関連する論文はそれぞれ1990年ごろから増加しており,とくに測定がより容易なSXDを用いた結果の報告数はより増加している(図1).各国のシンクロトロン施設の増加や充実,かつ,材料のナノスケール構造解析の需要の増大が背景にあると考えられる.本記事の文献では載せなかった資料については小著3),21),22)が参考になるかもしれない.また, XSW法の歴史,理論や測定の基礎,種々の適用例を含む本も最近出版された. 23)1.2位置付け高輝度X線を用いてもSXDの測定には数日を要するので,試料構造の劣化を簡単に評価できるのが望ましい.また,電子線回折法を使うと回折パターンから試料構造の対称性を比較的容易に得られるのに対し, SXDでは広い逆空間にわたるデータ収集が必要である.そのため,対称性の情報を得たり,初期構造モデルを作製したりするのにより手間がかかる.入射X線エネルギー幅や角度幅を工夫したり面検出器を巧みに組み合わせたりする24)と測定時図1出版された論文数.(Number of published scientificpapers containing results obtained by surface X-ray or grazing incidence X-ray diffraction and X-ray standing wave or X-ray standing waves versusthe year of their publication.)Web of Scienceによるタイトルorトッピクス検索の結果.検索語が“surfce X-ray diffraction”or“grazing incidence X-ray diffraction”については,図中でSXD,“X-raystanding wave”or“X-ray standing waves”についてはXSWと表示.間は短くなる可能性が高い.反復解法に基づくアルゴリズムを用いた直接法(参考記事25))などによりデータを解析し初期構造モデルを得るアプローチもある.このように,表面構造の評価法や構造モデルを使わないX線構造解析法は,現在でも研究されている.当時,表面に垂直な成分の強度変調が大きいXSW法による吸着原子位置は解析されていたが,表面内の位置を直接決定する方法は確立していなかった.以上の背景のもと,シンクロトロン単色X線を用い,吸着原子や薄膜の面内構造をモデルなしに決定する方法とナノスケール構造をより簡単に評価する方法とをそれぞれ開発することを目指した.2.スレスレ入射角・出射角の定在波法の開発と表面,薄膜構造への適用XSW法では,表面吸着子位置における波動場強度に比例した蛍光強度などの二次放射線強度を角度などの関数として記録することによって,その原子位置と秩序度を決定できる. 26)ここでは, X線が試料表面に対して全反射臨界角程度のスレスレな角度で入射し,かつ,表面にほぼ垂直な網平面で回折される配置について議論する.表面上では入射X線EOexp(-2πiKO・r),鏡面反射線ESexp(-2πiKS・r)と鏡面反射回折線E H exp(-2πiK H・r)の各平面波がコヒーレントに干渉して表面内に主として強度変調する波動場を形成する.ただし,入射波数ベクトルK O,鏡面反射波数ベクトルK S,鏡面反射回折波数ベクトルK Hである.結晶内波でも同様に波動場が形成される.このような波動場をここでは微小角定在波(GAXSW:grazing angle X-raystanding wave)と呼ぶ.定量的な解析に必要となるGAXSWの理論的な基礎を記し,表面に平行な方向の原子位置を定量的に解析した例を紹介する.まず, GAXSWの強度式は結晶内外の式を用いて表現されるので,この配置の波*2とその特徴に触れる.2.1結晶内外の波分散面は入射X線の回折条件からのはずれ角によって励起される波についての情報を与える. X線がスレスレに入射し,大きな角度でブラッグ回折される配置, 29)スレスレにX線が入射し大きな角度でラウエ回折される配置の分散面,回折強度,鏡面反射強度の定式化やシミュレーション30)の先駆的な研究があった.そこでは,入射波や生じる波はすべて同一の平面内で描ける.他方,今回の場合,その分散面を三次元的に(入射X線,結晶外の回折線,逆格子ベクトルが同一平面を作らないため)考慮する必要がある. K Oが試料結晶表面にほぼ平行な逆格子ベクトルH(=OH)に対してブラッグ条件をほぼ満足し,かつ,表面に対して全反射臨界角に近い角度ΦOで入射する場合*2三次元的分散面はGASXWを構成する波を理解する核心なので,解説記事など27),28)と一部重なるが,本記事においても簡潔に繰り返す.172日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)