日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 59/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

食中毒を引き起こすウェルシュ菌エンテロトキシンCPEの構造生物学的研究思われる.結局, C末端側にHisタグを導入したときに,PEG3350で得られた三角形の結晶は, 2.0 A分解能を超える回折データを収集することができた. 20)3.CPEの結晶構造3.1 CPE全長の構造決定回折データ測定は,大型放射光施設SPring-8の蛋白研ビームラインであるBL44XUで主に行った.三角形の結晶を用いて,最終的には1.98 A分解能のデータを収集した.このデータを用いて構造解析を行った.解析は, C末側のC-CPEをモデル分子として分子置換法を試みたが,電子密度がノイジーで主鎖のみをトレースしたものの,構造は不明瞭であった.フリーのシステイン残基があるので,数種類の水銀誘導体データについても測定を行っていたが,SAD法でもSIRAS法でも構造決定には至らなかった.そこでトレースした電子密度図をよく観察すると,構造は結晶学的に3量体で対称の中心に金属イオンらしき強いピークが観測された.タンパク質中にカルシウムなどの金属イオンの結合サイトがある場合,このサイトに同じ大きさのイオン半径をもつ重原子へと置換して位相を決定する方法がある.そこでこのサイトに重原子を導入するべく,サマリウムなどのランタノイド系の金属イオンとの置換による位相決定を試みた.バッチ法などで結晶を大きくすることで,実験室系でも3.1 A分解能のデータが測定可能となった.数種類の誘導体データ測定の結果,プログラムPhaserを用いて, C-CPEによる分子置換法とサマリウム誘導体を用いたSAD法とのPhase combinationによって構造決定することができた.その結果, N末端36~319残基までの全構造を構築することができ, Refmac5を用いた精密化で, Rfree=25.2%,R=19.3%の信頼性の高い,立体化学的にも正しい構造を構築することができた. 20)3.2 CPE全長の立体構造CPEは,モノマー構造をとり, 3量体の対称構造をとっていた(図2).モノマー構造は,引き延ばされたような細長い構造をしており, 17本のβ-strandと5本のα-helixを含む3つのドメインで構成されていた(図2).模式的に示すと, CPE分子はイモムシ様の全体像を呈しており,それぞれ頭部(D1),体躯(D2),尻尾(D3)に相当する3つの機能ドメインから構成されていることがわかった(図2). D1には,腸管上皮細胞膜にあるClaudin受容体に結合するドメインがあり,この受容体に結合するアミノ酸残基が外側を向いていることがわかった.さらに, D2, D3ドメインには細胞膜に孔をあけると思われるβシート構造が存在し,これにより細胞膜に孔があけられるβポア形成メカニズムがあること,つまり毒素分子の凝集によってD2ドメインの構造が大きく変化して細胞膜に孔をあける膜孔が形成されることを見出した.また, CPEで見出され日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)たβポア形成メカニズムはほかのβポアを形成する毒素と立体構造のトポロジーが一致していた.これらのことから, CPEがβ-Pore Forming Toxin(β-PFT)のファミリーに属することが示唆された. 20)3.3 CPEは結晶中で3量体を形成CPEは結晶中で3量体を形成し,その大きさは横幅90 A,高さ52 Aとなっていた(図3). 3量体の中心には,3個のGlu94と3個のGlu110の計6個のグルタミン酸によるクラスターが存在した.このグルタミン酸クラスター図2 CPEのモノマー構造.(Overall structure of full-lengthCPE.)図3 CPEの3量体構造.(Trimeric Structure of CPE.)A:3量体を垂直方向から見た図, B:3量体を水平方向から見た図.スティックで示した残基がグルタミン酸.225