日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 57/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌55,223-229(2013)最近の研究から食中毒を引き起こすウェルシュ菌エンテロトキシンCPEの構造生物学的研究京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科生体分子工学部門大阪大学微生物病研究所分子細菌学分野北所健悟,西村昂亮神谷重樹,堀口安彦Kengo KITADOKORO, Kousuke NISHIMURA, Shigeki KAMITANI and YasuhikoHORIGUCHI: Structural Biology of the Food Poisoning Clostridium PerfringensEnterotoxinClostridium perfringens enterotoxin(CPE)is a cause of food poisoning and is considereda pore-forming toxin which damages target cells by disrupting the selective permeability ofthe plasma membrane. We determined the crystal structure of the full-length CPE at 2.0 A.The overall structure of CPE displays an elongated shape, composed of three distinct domains,D1, D2, and D3. In this structure, the pore-forming domain(Val81~Ile106)of CPE has alternatingpattern of polar and hydrophobic residues and formsα-helix. This characteristic sequence isfrequently observed inβpore-forming toxin families as typified byα-hemolysin. These resultsindicate that CPE behaves asβpore-forming toxins.1.はじめに喫食によって引き起こされるノロウイルスやO-157などの感染による食中毒は,一年を通して常にわれわれと背中合わせにあり,時には重篤な症状を引き起こす厄介な存在である.これら食中毒は,腹痛,下痢,嘔吐や発熱を引き起こすが.その原因は,食品中に含まれた病原因物質を人が口から摂取したことによる.最近では,ノロウイルスなどの人から人へ感染するウイルス性の食中毒も見られる.細菌感染によって引き起こされる食中毒としては,世界最強の毒と言われるボツリヌス菌が産生するボツリヌス神経毒素が有名である. 1)この毒素の致死量は,普通の毒とはケタ違いで,ペットボトル1本分で全人類を死滅させるほどであり, 1)炭疽菌と同様にバイオテロへの使用が懸念されている.1.1細菌毒素とは細菌毒素(bacterial toxin)とは,細菌が生産するタンパク質で,微量で生体に重篤な障害をもたらすものを総称している. 1)細菌毒素による強い毒性の原因は,細菌毒素がもつ構造上の特徴にある.つまり細菌毒素は「病気を起こすのに必要なすべての機能を一分子内に包含する」マルチドメインを有する超分子複合体の総称である.すなわち,宿主内でターゲットとなる標的細胞に,受容体との特異的な結合を介して取り付き,細胞内に侵入する.その後,生体内のオルガネラなどを用いて細胞内を移動する.その後,標的分子に対して特異的な生物活性を発揮する.この日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)ように細菌毒素は,分子内に種々の活性領域をもち,これらが分担して上記の諸過程を実現している.このように,細菌毒素は,非常に巧みに構成された超分子複合体であり,生物のような精密な分子マシーナリーであると言える. 1)1.2ウェルシュ菌による食中毒について「カレーは2日目がおいしい」などと言われるが,ここで気をつけないといけないのが,ウェルシュ菌による食中毒である.ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は,クロストリジウム属に分類されるグラム陽性の嫌気性桿菌である. 1)ヒトを含む動物の大腸内のいわゆる悪玉の常在菌で,海,河川,下水,土壌中など広く自然界に分布している.ウェルシュ菌はヒトに対して,ガス壊疽,出血性腸炎,腸内毒素血症などのさまざまな感染症を引き起こすが,本菌が最も多く引き起こす感染症は,給食などで発生する大量食中毒である. 1)ウェルシュ菌は別名,給食病または給食菌やカフェテリア菌と呼ばれることがあり,この菌による食中毒の1件当たりの患者数は,ほかの細菌性食中毒と比べて圧倒的に多いのが特徴である. 1)毎年国内でも, 30例程度の発生件数がある.ウェルシュ菌は耐熱性の芽胞を形成するため,食品の加熱処理によりほかの菌が死滅しても,生き残ることができる.カレーなど大鍋で調理した食品を一晩放置して,翌日に引き続き食べる場合は,よく加熱しないとほかの菌が死滅しても,耐熱性のウェルシュ菌のみが残る場合がある.未処理で残ったウェルシュ菌は,腸管内で菌の増殖とともに耐熱性の芽胞を形成し,同時にウェルシュ菌エンテロトキシン(Clostridium perfringens223