日本結晶学会誌Vol55No3

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

Li内包C 60の岩塩型結晶の構造と相転移いX線回折データの測定によってようやく検出できた.大きさ0.1 mm程度の単結晶試料に対して, SPring-8BL02B1の大型湾曲IPカメラを用いて, He吹付装置により20 K付近で測定した結果, d>0.33 Aの範囲で回折ピークを測定することができた.最小二乗法で得られるr Cの標準偏差は, X線回折データの分解能に依存する. 300 Kではd>0.5 AまでX線回折ピークが観測され,決定されたr Cの標準偏差は0.002 A程度であった.一方, d>0.33AまでX線回折ピークが観測されている50 K以下では,決定されたr Cの標準偏差は0.001 A以下となっている.5.Li +の運動と局在化低温相でC 60分子の回転運動は停止しているのに対し,Li +はC 60内部の複数の位置を占有している. MEMによって求めた155 Kでの(1-10)面上の電子密度の等高線マップを図4aに示す. C 60内部に,内包されているはずのLi +による電子密度ピークは見当たらない.これは, Li +がC 60内で特定の位置に局在しておらず,複数の位置を占有した非局在な状態にあるためである.図4aから, Li +を仮定していない構造モデルの電子密度を差し引くと,図4bのようになる. C 60の内部に,非局在化したLi +による球殻状の低い電子密度分布が観測される.球殻の半径はおよそ1.5 Aである.球殻上の電子密度は完全に一様ではなく, C 60の6員環の中心近傍で電子密度がやや高い.このことから,Li +イオンは20個ある6員環の中心近傍を,動的に熱運動しているか,静的にランダムに占有していると考えられる.C 60内部のLi +イオンは100 K以下で,温度低下に伴い徐々に局在していく. 45, 22 Kでの(1-10)面上の電子密度の等高線マップを図4c, dに示す. 22 KではC 60の中心から1.40(1)A変位した,[111]軸上の反転対称の関係にある等価な2つの位置に, Li +が局在している.このLi +イオンの局在化は,特に50 K以下で急激に進行する. Li +イオンの局在化が温度低下によって引き起こされることから,100 K以上での非局在な電子密度分布(図4a, b)は, Li +イオンの動的な熱運動によるものであると結論づけられた.Li + ?イオンの大きな熱運動は, PF 6陰イオンの配置から理解することができる. C 60の6員環の中心近傍がリチウム原子の安定位置であることは理論計算でも示されており, 100 K以上でLi +イオンが20個の6員環の中心近傍を占有することは不自然でない. 17)しかし[Li@C 60](SbCl 6)の結晶では, 370 Kの高温でもLi +イオンは, Li + @C 60に配?位したSbCl 6陰イオンに引き寄せられるようにC 60内に局在している.[Li@C 60](PF 6)では,?6つのPF 6陰イオンが1つのLi + @C 60の周囲に,対称的に正八面体の頂点位置になるように配位している(図2c).その結果PF ? 6からLi +に働く静電的な引力が弱め合うために, Li +はC 60内で局在化しにくい.Li +が100 K以下で局在化する位置は, Li +にとって最安日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図4[Li@C 60](PF 6)の電子密度マップ.(Charge-densitycontour maps of[Li@C 60](PF 6)at(a),(b)155 K,(c)45 K and(d)22 K.)(a),(c),(d)はそれぞれ155, 45, 22 Kでの電子密度分布.等高線は0から4.0 e/A 3を0.2おきに描いている.(b)は155 Kでの差電子密度分布.等高線は-0.19から0.19 e/A 3を0.02おきに描いている.?定な位置である.この位置は, 3つのPF 6陰イオンが等距離で配位している(図2c).そのような位置は合計で8つあるが,そのうち[111]軸(3回軸)上の2つはC 60の6員環の中心近傍で安定であるのに対し,それ以外の6つは炭素と炭素の結合の近傍であるために安定でない. 22 Kの低温でも2つの位置を等確率に占有している状態は, Li +イオンが,静的に2つの位置のうちのどちらかをランダムに分子によって二者択一して占有しているか,量子的に分子内の2つの位置をトンネリングしているモデルによって説明できる.Li + ?陽イオンとPF 6陰イオンとの間の静電的相互作用は, C 60の分子配向にも影響している. 6員環の中心近傍がLi +陽イオンの安定位置であるため, Li +陽イオンが?PF 6陰イオンに引き寄せられたとき, C 60は6員環の中心をLi + ?陽イオンとPF 6陰イオンの間に置く配向をとるほうが安定である(図2c).空のC 60の結晶で現れる2種類の分子配向のうち,存在確率の高い分子配向では6員環中心がLi + ?陽イオンとPF 6陰イオンの間に位置する.一方,存在確率の低い分子配向では5員環中心がLi +陽イオンと?PF 6陰イオンの間に位置する.その結果[Li@C 60](PF 6)では,空のC 60結晶で存在確率の高い分子配向は安定化さ221