日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 5/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌55,171-179(2013)総合報告(学会賞受賞論文)表面界面に埋め込まれたナノスケール薄膜・ナノワイヤーの定量的構造研究物質・材料研究機構中核機能部門高輝度放射光ステーション坂田修身Osami SAKATA: Synchrotron X-ray Diffraction Studies of Nanoscale Thin Films andWiresThe grazing-angle X-ray standing wave(GAXSW)method for model-independent and atomicscaledetermination of in-plane structures and X-ray reciprocal-space mapping(XRSM)at asample angular position for quick structural estimation are discussed. The both have beendeveloped for analysis of a nanoscale structure such as an adsorbed surface system and aburied nanoscale structure. They are synchrotron-based X-ray diffraction techniques, which usemonochromatic parallel hard X-rays incident at a small angle close to the critical angle fortotal-external reflection. GAXSW’s are dynamically formed by the interference of an incident,a specularly reflected, and a specularly diffracted beam above a sample surface. A Braggcondition is satisfied on lattice planes perpendicular to the surface. The author describesin-plane structural analyses of a surface system and a thin film. Outcomes of XRSM arebriefly summarized for nanoscale structures of a surface, buried interfaces, and a thinfilm. In particular, results of nanoscale wires are mentioned.1.はじめに著者が研究を始めた前後の時期の状況を紹介した上で,研究の動機などを位置づける.構造モデルを必要としない測定法である1種の定在波法とナノスケール構造をより簡単に評価する試料の角度を固定した逆格子マッピング法とを述べる.共通点は微小角入射条件(以下スレスレ入射条件)である.この数年の間,日本結晶学会誌を始め,後者やこれまでの取り組みに関し複数の解説1)-3)を執筆する機会をいただいた.そのような次第から,本報告では小生のこれまでの記事との重複を可能な限り避け,前者については書く機会がほとんどなかったのでより紙面を割き,後者は要約させていただくことにする.1.1背景半導体,触媒,電池などのグリーン材料の機能にその表面界面や薄膜の構造が大きく影響することから,そのナノスケールの構造を非破壊法で解析することはますます重要になっている.超高真空下や溶液中などの単結晶表面構造から生じるX線回折強度は非常に弱いため, 20年前は材料のナノスケール解析をするのは難しかった.近年高度に安定した良質な高輝度シンクロトロンX線を広く利用できるようになったおかげで,表面X線回折(SXD:surface X-ray diffraction, GIXD:grazing incidence X-raydiffraction)法はより普及するようになった.原子散乱因子の精密なデータや確立されたバルクの結晶構造を決定す日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)る解析過程などX線結晶学でこれまで培われ体系化された知識を駆使し,その表面構造として単位胞内の原子位置を精密に解析可能となった.1979年に実験室のX線源を用いGaAs単結晶上に育成された厚さの異なるアルミニウム単結晶膜の構造が調べられた. 4)全反射条件において試料表面に垂直な網平面からの回折強度プロファイルを測定し,試料表面平行方向の格子定数を界面から距離の関数として定量した点が新しかった.その論文では,この測定配置がシンクロトンX線とともに利用されると,吸着原子の構造の研究ができるようになるだろうと記されていた.実際, 1981年にこの測定配置がGe(001)?(2×1)再配列構造に初めて適用された. 5)国内では初期の頃から研究活動がある. 6),7) 1970年代の後半から,ブラッグ点において表面に垂直なニードル状の強度分布をもつ散乱*1についても研究されていた. 9)また,このような実験研究は理論研究も刺激したと思われる.スレスレ入射条件の表面回折に関して歪み波近似に基づく論文10)や動力学的回折理論に基づく論文11)がこの頃発表された.Ge単結晶におけるブラッグ条件付近の蛍光X線の強度変調の観察から波動場の存在が最初に報告された. 12)国内では動力学的回折研究の基盤があった. X線波動場の研究例は次のとおりである. Ge単結晶のラウエ回折にお*1当時, extra diffuse scatteringと呼んでいたそうであるが,後にcrystal truncation rod散乱8)と名付けられた.171