日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 49/82

電子ブックを開く

このページは 日本結晶学会誌Vol55No3 の電子ブックに掲載されている49ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

MEMによるターゲット構造可視化法の開発:タンパク質を封じ込めた人工カプセルの合成と構造決定空錯体の総電子数[e]=196,000[A 3](単位格子の体積)×0.9(溶媒領域の割合)×0.32[e/A 3](溶媒領域の平均電子密度)+6000[e](M 12L 24空錯体の総電子数)×2(単位格子辺りのM 12L 24空錯体の数)ユビキチン包接錯体の総電子数[e]=空錯体の総電子数[e]+10,000[A 3](ユビキチン領域の体積)×(0.39[e/A 3](ユビキチンの平均電子密度)-0.32[e/A 3](溶媒領域の平均電子密度))×2(単位格子辺りのM 12L 24空錯体の数)MEMにより,骨格内部の電子密度は,フーリエ電子密度と比較して改善した.例えば,従来法ではあいまいだった骨格から内部に繋がる糖鎖構造において,明確なリンカーの数原子と糖鎖に相当する塊を確認することができている.さらに,ユビキチン包接錯体と空錯体によるMEM差電子密度図の確認を行ったところ,骨格部分において差電子密度分布が0に近い値になっており,各錯体間の電子密度が正しくスケーリングされていることが確認できた.しかし,ユビキチンそのものの電子密度については,その形を確認することはできず,ぼんやりと内腔中心部分に電子密度が存在するような状態であった.これは,ユビキチンが,結晶中において一方向に配向しているわけではなく,各対称軸に従った形でさまざまな配向をもつためと考えられる.また,錯体内部の空間は約32,000 A 3とかなり広く,その空間内でユビキチンがさまざまな位置に配置されているためとも推測される.また,差電子密度分布においても,中央部分には高いピークが存在しており,ユビキチン由来のものであると考えられたが,この段階ではこの高い差電子密度分布がユビキチンの外形とは違い,あいまいな形であったことから,ユビキチンの存在を証明しているとは判断できなかった.4.MEM電子密度のヒストグラム解析ユビキチン包接錯体の骨格内部に,ユビキチンの電子密度を明瞭には確認できなかったことから,電子密度分布の違いによりユビキチンの存在を証明しようと考えた.MEMにおけるF(000)計算の箇所でも述べたように,ユビキチンと溶媒では平均電子密度に違いがある.そこで,MEM電子密度のヒストグラムを求め,ユビキチン包接錯体と空錯体で比較すれば,電子密度の分布が多い場所(ヒストグラムのピーク位置)について,ユビキチンに由来する指標が得られるのではないかと考えた.そこでまず,電子密度のグリッド点数を揃えるために,空錯体についても,本来の空間群Im3 _ mから,包接錯体と同じI222に変換して再精密化を行い, MEMによる電子密度を計算した.こうして得られた電子密度図は, Im3 _ mで精密化を行った日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図4 MEM電子密度ヒストグラム.(Histograms of MEMelectron densities.)ユビキチン包接錯体と空錯体,それらの差分ヒストグラムはそれぞれ実線,点線,実線に黒丸で示した.差分ヒストグラムの正成分(リボン模様)は,体積換算で22,295[A 3],電子数換算で8,155[e]である.差分ヒストグラムの負成分(灰色)は,体積換算で20,795[A 3],電子数換算で4,003[e]である.図5ユビキチン包接錯体と空錯体のMEM差分ヒストグラム(点線)をガウス関数で波形分離したグラフ.(Waveform separation of the difference histogramshown in Fig 4.)正成分(薄い灰色)は,体積換算で58,674[A 3],電子数換算で20,713[e]である.負成分(濃い灰色)は,体積換算で56,238[A 3],電子数換算で16,691[e]である.電子密度とよく一致することを確認している.そのMEM電子密度ヒストグラム解析(Histogram analysisof MEM Electron-Density;H-MED)の結果,包接錯体と空錯体の電子分布のピークはそれぞれ, 0.34[e/A 3], 0.32[e/A 3]となり,包接錯体のヒストグラムのピークは,空錯体に比べて鋭い形になっている.確かに包接錯体のヒストグラムが空錯体に比べ,ピークの電子密度が高くなっているが,これだけでは,タンパク質の包接を示しているとは言い難い.なぜなら,F(000)の値を変化させてMEMを計215