日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 48/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

水野伸宏,藤田大士,佐藤宗太,熊坂崇,藤田誠,高田昌樹図3包接錯体結晶回折強度データの自己回転関数.(Self-rotation function calculated from diffraction intensity of aencapsulated ubiquitin crystal.)(分解能20-2.1 A)積分半径(左20 A,右50 A)を変えて計算した. 2回軸を示すピーク(A)(χ=180°)では,左右とも原点ピークに対して9割を超える高い強度をもっており結晶学的対称であることが確認できるが, 3回軸を示すピーク(χ=120°)では,左のピーク(B)が原点ピークに対して7割程度の高い強度をもつが,右のピーク(C)は2つに割れており,強度も3割程度に下がっており,この対称性は非結晶学的対称であることを示唆している.明だが,重金属であるパラジウムの分子内対称性が高いためか,骨格分子が重なる解しか得られなかった.このため,空錯体ですでに明らかになっていた構造モデルを基にして,タンパク質で使われる分子置換法を用いて構造決定を進めた.得られた電子密度は,骨格部分については,ユビキチン包接錯体および空錯体両者とも構造モデルがよく一致していた.一方で,ユビキチンを含む内部は不明瞭であった.このような揺らぎの大きな,つまりピーク電子密度が低い構造を詳細に確認するには,通常の電子密度図(F oあるいは2F o-F c)では困難である.例えば,位相誤差や低角反射の不足により生じる負の電子密度や,重原子周辺に見られるリップルが電子密度の確認に悪影響を与える.また,構造モデルから全電子数に対応するF(000)の値を見積もるため,モデルに含まれない構造情報を反映させにくいことなどの問題もある.そこで,金属内包フラーレン5),6)やMetal OrganicFramework 7),8)のナノ細孔に吸着した気体分子の電子密度可視化において実績があり,測定データに対して合理的なノイズの少ない電子密度を与えるマキシマムエントロピー法(MEM)9)を利用し,電子密度の改善を行うこととした. MEMによる電子密度図の計算は,事前にF(000)を見積もった上,導入することが可能であり,その総電子数を観測された構造因子に従い,配分していくことによって合理的な電子密度を得ようとするものである.そのため,負の電子密度が出現することはなく,構造モデルを置かない部分についても,誤差が少ない電子密度を得ることが可能となる.今回のユビキチン包接錯体の場合,この誤差の出やすい溶媒領域が非常に大きいことから, MEMを利用することが良いと考えたが,構造モデルをもたない部分における電子数の見積もりは,かなり困難である.今回の場合は,結晶化溶媒は,ジメチルスルホキシド(DMSO;平均電子密度0.35[e/A 3])と酢酸イソプロピル(平均電子密度0.29[e/A 3])が均等な割合で混合したものであることから,その平均電子密度を0.32[e/A 3]とし,ユビキチンの平均電子密度については,ユビキチンの総電子数と体積から0.39[e/A 3]と見積もった.そして,これらの値を基に,以下の式で単位格子中の総電子数を算出した.214日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)