日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 47/82

電子ブックを開く

このページは 日本結晶学会誌Vol55No3 の電子ブックに掲載されている47ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

MEMによるターゲット構造可視化法の開発:タンパク質を封じ込めた人工カプセルの合成と構造決定図2DOSY NMR分析と超遠心分析の結果.(DOSY NMR and ultracentrifugal analyses.)a)1 H DOSY NMRにより,ユビキチン由来のシグナルの拡散係数が,骨格サイズに応じて変化していることが明らかになった.b)沈降速度法により,高い単分散性を有することがわかった.c)沈降平衡法により算出したMwは,計算値とよく一致することが示された.平衡法にて評価を行った.沈降速度法により求められた沈降係数sの分布から,空の錯体,ユビキチン内包錯体はともに混合物ではなく,高い単分散性を有していることが確認された.さらに,沈降平衡法により求めた重量平均分子量Mwは,それぞれ計算値とよい一致を示している.これにより,「一義的な構造」をもった目的のユビキチン包接錯体が,設計どおり,「選択的」「定量的」に生成していることが明らかになった.最後に,この合成したタンパク質包接錯体に対して,これまでほかの研究例では決して適用できなかった,単結晶X線構造解析を行うことを試みた.種々の条件検討の結果,ユビキチン包接錯体のジメチルスルホキシド溶液中に,酢酸イソプロピルを蒸気拡散することによって,質のよい単結晶が得られることがわかった.構造が不均一な系ではそもそも単結晶を得ることが不可能であるため,もし単結晶X線構造解析を適用することができれば,構造情報が得られるのみならず,「これまでのタンパク質のカプセル化とは本質的に異なる, 1つ上のステージにある研究」であることを,明確にデモンストレーションすることができると考えた.その結果,われわれはX線構造解析によって,有機錯体中にタンパク質が包接される様子を初めて明らかにした. 4)3.電子密度による錯体内部構造の観察評価ユビキチン包接錯体の骨格内には,半径が約20 Aという非常に大きい内部空間が存在し,その中にユビキチンおよび溶媒分子が存在している.こうした規則性をもたない溶媒領域が大きい領域を占める分子配置をもつ場合,溶媒領域に接触する部分において,分子間および分子内での原子配置が動きやすい状態にあるため,分子の規則性が崩れ日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)やすく,結晶性が悪くなる傾向がある.また,格子定数も合成された一般的な有機化合物よりタンパク質などの生体高分子の格子定数に近いものであり,実験室のX線装置では十分な回折能を得ることができていなかった.そこで,放射光施設SPring-8のBL38B1およびBL41XUにて,X線回折データ収集を行った.このM 12L 24パラジウム球状錯体は,内部には骨組みがなく多くの溶媒を含むため,内部に包接された分子からの影響も受けて歪みやすい.特に,今回は分子に対称性がないタンパク質を含むため,骨格の対称性も低くなると考えられる.通常,分子内対称性が高い分子結晶は,結晶の空間群もそれに合わせて高くなると考えられ,実際に回折強度の見かけの対称性が高いことが多かった.しかし,特に包接錯体では,解析の過程でR因子が下がらないことがしばしば見られた.この問題は,対称性を落とすことでほぼ解決するため,空間群の見積もりが誤っていると言える.この錯体の場合にも,空錯体では空間群がIm3 _ mであったが,ユビキチンを包接した錯体の結晶は同様の格子定数をもつものの,空間群がI222に変化していることを確認した.骨格分子のもつ3回対称が消失し,さらに対称心のない分子ユビキチンを含むことが原因と考えられる.このため空間群の判定には自己回転関数を用いた.結晶学的対称に対応するピークは積分半径によらず原点と同程度の高い相関係数をしめすはずであるが,図3に示すように, 3回対称に対応するピークは積分半径を分子サイズより大きくしたときに相関が下がっている.このことから,これは非結晶学的対称であると結論し,空間群を決定した.一方,直接法による位相決定では,空間群を正しく決めて処理をすると,初期位相を決定できなかった.原因は不213