日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 45/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌55,211-217(2013)最近の研究からMEMによるターゲット構造可視化法の開発:タンパク質を封じ込めた人工カプセルの合成と構造決定高輝度光科学研究センター利用研究促進部門*,東京大学大学院工学系研究科*,現所属:POSTECH***水野伸宏*,藤田大士**,***,佐藤宗太*,熊坂崇*,藤田誠*,高田昌樹*Nobuhiro MIZUNO, Daishi FUJITA, Sota SATO, Takashi KUMASAKA, MakotoFUJITA and Masaki TAKATA: Development of a MEM Structure Visualization Method:Synthesis and Structural Analysis of Artificial Capsule Enclosing ProteinProteins, sophisticated biological macromolecules, are being expected to use a widevariety of applications in the fields of industry, drug discovery and so on. However, it is nowlimited due to their structural instability. We first achieved to enclose the protein ubiquitinwithin the precisely-structured artificial capsules utilizing self-assembly process. This moleculeis quite stable in various physicochemical environments. Moreover, to prove the existence ofthe flexible protein structure within the capsule, we developed a crystallographic methodusing histogram analysis of MEM electron-density(H-MED). This method might be useful toidentify flexible structures which are difficult to construct atomic models.1.はじめにタンパク質――その構造が生み出す多種多様な機能は,生物学者のみならず,化学者の興味の対象でもあり続けてきた.「タンパク質の機能を化学的に改変したい」,「人間の使いやすい形で取り出したい」というのは,化学者にとって自然な願望と言っても過言ではないだろう.しかし,近年の分子生物学の著しい発展にもかかわらず,タンパク質はいまだ化学者にとって「与しやすい」ターゲットとはなっていないのが実情である.化学者が「タンパク質を自在に操る」レベルに到達するためには,大きく2つ乗り越えなければならない障壁がある. 1つ目の障壁は,タンパク質の安定性である.有機溶媒,高温,非適pH,変性剤などによってその機能を失ってしまうタンパク質は,化学者が得意とする多くの化学反応条件を許容しない.そのため,タンパク質の修飾,改変に適用できる反応はおのずと限られてしまう.もう1つの障壁は,タンパク質の構造が,多数のアミノ酸の繰り返し構造によって構成されている点である.このため,化学的環境が類似した部位が多く存在することになり,特定の部分を選択的に修飾するには,多くの困難が伴う.そこで考え出された1つの方法が,ビルの建築現場のように,「タンパク質の周りに人間が取り扱いやすい足場を組み上げる」というアプローチである.人工的に修飾しやすい構造体を適切な位置に組み上げることができれば,これを手がかりに,化学的修飾を行うこ日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)とが可能になる.この手法は,タンパク質の化学修飾や機能改変のみならず,タンパク質の新しい分析法,あるいは新しい人工酵素のモデルなどに繋がる基盤技術となることも期待される.小分子には限定されるものの,分子の周りに「足場(ホスト)」を構築し,内部の分子(ゲスト)の性質や機能をコントロールしようとする試みは,実は超分子化学の一分野としてこの数十年盛んに研究が行われてきた.古くは,クラウンエーテル,シクロデキストリンの研究から始まったこの分野は,近年までに多くの研究成果と,数々の工夫を凝らしたホスト分子を報告してきた.しかし,現在までにタンパク質がゲスト分子として取り扱われた研究例はない.それは,タンパク質のサイズが,ほかの分子に比べ,あまりに巨大であるという事実に由来する.ホスト-ゲスト化学が取り扱えるゲスト分子のサイズは,最近でもせいぜいフラーレン類程度(直径約1 nm)に限定されていた. 1)小さくとも4~5 nmの直径をもつタンパク質は,まさにスケールの違うターゲットである.タンパク質をゲスト分子として取り扱える系の開発は,これまでの単純な延長線上にはない新しい技術の確立を意味する.われわれは,タンパク質を包み込むホスト骨格として,自己集合性金属錯体を用いる戦略を考えた.一般的に分子量の増大とともに,その合成にかかる労力は飛躍的に増大する.これが,これまで大きなホスト骨格を構築できない主要因であった.しかし,各パーツが分子設計どおりにひとりでに組み211