日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 43/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

放射光X線回折によるミオシンクロスブリッジの頭部間相互作用―ミオシンフィラメントの筋収縮制御の構造的基盤制御されている.しかしながらこの制御機構が働かないとされている骨格筋のミオシンクロスブリッジにおいて,規則領域のクロスブリッジ間での頭部間相互作用はタランチュラ筋の同一クロスブリッジの頭部間相互作用の形態(図7a, b)に非常によく似ていて,片方の頭部がもう一方の頭部のコンバータドメインのほうに向いていた.コンバータドメイン(図7で黄色で示した部分)はミオシンの機能に重要なドメインで, ATP加水分解時にこの部分を中心にして頭部の尾部(レバーアーム)が回転すると言われている. 29)この頭部間の配置がどういった相互作用の力によって生じるのかを調べるために,分子表面の静電ポテンシャルを計算した.規則領域(図7e)では,一方の頭部のコンバータドメインに負の電荷が,もう一方の頭部の相互作用面には正の電荷が多く分布している.摂動領域では,クロスブリッジ間の頭部間相互作用はタランチュラ筋ミオシンのそれとは異なり,静電ポテンシャルの相補性に加えて,一方の頭部の突き出た部分が片方の頭部の窪みにはまり込むような立体構造の相補性もあった(図7c, f).一方,同一クロスブリッジの頭部の側面間の相互作用(図7d, g)は全体としてはタランチュラ筋とは異なるが,一方の頭部のコンバータドメインともう一方の頭部のモータードメインが静電相互作用する形態は共通していた.これらのことから規則,摂動領域で見られるクロスブリッジ内,クロスブリッジ間の頭部間相互作用は主に静電相互作用によって生じており,それらの相互作用にコンバータドメインが関与していることが明らかとなった.このように弛緩状態のミオシンフィラメントの構造はこれらの頭部間相互作用によって安定化され,制御機能にコンバータドメインが重要な役割を果たすことが示唆された.4.おわりに高等動物の骨格筋ミオシンクロスブリッジの頭部間相互作用は規則領域では隣接クロスブリッジ間で,摂動領域では隣接クロスブリッジ間および同一クロスブリッジの頭部ペア間の両方で生じている.いずれも頭部のモータードメインが機能部位であるコンバータドメインをブロックする形態をとっている.そしてさまざまなタイプの筋肉の弛緩状態のミオシンに見られる共通の構造形態を含むものとなっていた.ミオシン分子のリン酸化によって筋収縮が制御される無脊椎動物のクロスブリッジでは同一クロスブリッジ内で頭部間相互作用があり,その形態が電顕で“J”字型に見えるところからJ-モチーフと呼ばれている. 1)一方,われわれの解析したカエル骨格筋においては,図7隣接クロスブリッジ間,同一クロスブリッジ内でのミオシン頭部間相互作用.(Inter- and intra-molecular interactionsbetween heads of myosin crossbridges.)(a)規則領域のクロスブリッジ間での頭部間相互作用.(b)タランチュラ筋のクロスブリッジ内での頭部間相互作用.(c)規則領域のクロスブリッジ間相互作用にかかわる頭部分子表面の電荷分布.(d)摂動領域のクロスブリッジ間相互作用にかかわる頭部分子表面の電荷分布.(e)規則領域のクロスブリッジ間相互作用にかかわる頭部分子表面の電荷分布の拡大図.(f)摂動領域のクロスブリッジ間相互作用にかかわる頭部分子表面の電荷分布の拡大図.(g)摂動領域のクロスブリッジ内相互作用にかかわる頭部分子表面の電荷分布の拡大図.赤色は負電荷領域,青色は正電荷領域を示す.黄色はコンバータドメイン部分を示す.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)209