日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 41/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

放射光X線回折によるミオシンクロスブリッジの頭部間相互作用―ミオシンフィラメントの筋収縮制御の構造的基盤として強度分布を計算した. 19)補正前には顕著に観測された層線反射上の干渉ピークが補正後には“強度の保存則”23)に従う形で消失していることがわかる.このようにして単一フィラメント由来の層線強度分布を求め,クロスブリッジ構造のモデリングに利用した.ただし,後に示す図6aの子午軸近くの点線の強度については,フィラメント間の干渉効果を完全に取り除くことができなかったため, 19)以下のモデリングには使わなかった.3.ミオシンクロスブリッジの構造モデリング3.1太いフィラメント上のミオシンクロスブリッジの構造補正後の層線強度分布を利用して双頭クロスブリッジの方位角構造を解析した.ミオシンフィラメントの構造の初期モデルとして, 2007年にわれわれが報告したフィラメントモデルを利用した. 10)このモデルはミオシン子午反射の子午方向の強度プロフィルに最適化するように作られた.図5aに示すように弛緩状態では摂動領域が全クロスブリッジ領域の~70%を占めており,残り~30%は規則領域(摂動のない領域)でフィラメントの両端部分に存在している. CゾーンのM線を挟む中心間距離は,前述したわれわれのX線結果と電顕による結果15),16),18)を考慮して,~731 nmとした(図5a).したがってCゾーンはミオシンの摂動領域の中心に位置し,その60~70%を占めている.このことから,ミオシンフィラメントの摂動領域の形成はCタンパク質の結合と関係していると言われている.この2007年モデルに電顕トモグラフィー解析によるCタンパク質の構造モデルを加えた(周期はわれわれの決定値を用いた)(図5b).また弛緩状態のミオシン頭部の原子構造としてATP加水分解プロダクト(ADPとリン酸(Pi))が結合した状態(筋肉の弛緩状態のクロスブリッジの頭部はこの構造状態に対応する)のものを使った.これはATP溶液中のミオシン頭部のX線小角散乱パターンに合うようにヌクレオチドフリーミオシン頭部の結晶構造24)のレバーアーム部分(図1b参照)を回転させたモデル25)を基本にエネルギー最小化計算を施したものである(S1図参照).以下の最適モデル探索ではこの原子構造を68個の球で近似したモデルを使うことで,層線強度の計算時間を短縮した.最適化の手順としては初めにミオシン子午反射強度プロフィルに最もよく一致するようにクロスブリッジの2つの頭部の長軸方向の配向を決めた.次に六方格子のサンプリングを除いた層線部分の反射強度分布に最もよく一致するように方位角方向の配向を決めた.さらに,骨格筋のミオシンフィラメントの赤道面に投影した電子密度が9回対称ではなく, 6回対称の様相をもつとい*S1図は, J-Stageの電子付録(Supplementary)をご参照下さい.日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)う結果26)-28)を説明しうるように方位角方向の摂動も組み合わせて最適モデルを探索した.パラメータとしてはミオシンクロスブリッジのらせん半径(rh)とその方位角(φ),各ミオシン頭部の繊維軸周りの向き(ε)である(図5c).モデルの評価関数として以下に定義したRDI(the residualdeviation of intensity)値を利用した.(積分の下限以下の強度データは前述の理由で使わなかった.上限は測定限界値である.)RDI =11 0.157∑∫ref, ll=1 0.025411 0.157∑I ( R) ? s I ( R)dR∫l=1 0.0254Iref, lc obj, l( R)dR(3)得られた弛緩状態のミオシンクロスブリッジモデルからの層線強度と観測強度の比較とそのモデルを図6に示した.最適モデルのRDI値は~0.30で, Cタンパク質の寄与や方位角方向の摂動を導入していない場合の最適モデルの値より改善された.クロスブリッジの摂動は図6bのミオシンフィラメントの動径射影図において○を結ぶ斜めの直線(9/1らせん軌道)からのずれとして示している.42.9 nmの結晶学的周期の中で3つのクロスブリッジの方図5太いミオシンフィラメントのクロスブリッジの構造モデリング.(Modeling crossbridge structure ofthe frog skeletal myosin filament.)(a)太いフィラメント上のクロスブリッジの規則領域(緑の鎖線),摂動領域(青の縦線)とCゾーン(赤の太線)の分布.(b)Cタンパク質を含んだ摂動領域の太いフィラメントのモデル.上,上から見た図.下,横から見た図.(c)クロスブリッジの配向を最適化するときのパラメータ.白色の球鎖, Cタンパク質.灰色,バックボーンを表す円筒.紫とピンク色,球モデルによるクロスブリッジの2つの頭部.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.207