日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 40/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

大島勘二,若林克三の中心間距離~730 nmに近かった. 15),16),18)また筋肉が収縮すると構造が乱れることと関係して,著しく強度が弱くなるという性質があることから, C2-C5反射をCタンパク質由来の反射と同定した.これらのサンプリングを受けた反射の平均スペーシングからCタンパク質の周期を測定した結果, 45.33±0.58 nmとなり,ミオシンの周期42.96±0.11 nmと異なることが明らかとなった(図3f).この違いはCタンパク質のミオシン骨格から突き出た部分が隣接する周期の異なるアクチンフィラメントと相互作用することによると考えられる. 17)したがってこの部分の配列はかなり乱れをもつことになる.これらのことはCタンパク質のミオシン由来の層線反射強度への寄与は小さいことを意味するが,反射の拡がりのため小角領域では部分的にミオシン層線と重なることが予想される.以下のモデリングではCタンパク質の可能な寄与を考慮した.2.3差円筒対称パターソン関数を利用した強度補正骨格筋のX線回折像のミオシン層線反射に観測される格子由来のサンプリング効果(図2b)を補正するために,われわれは赤道反射を除いて計算される差円筒対称パターソン関数(the cylindrically symmetrical differencePatterson function)(?Q(r,z))22)を利用した補正法を考案した. 19)以下ではその概要を述べる.今,繊維軸に沿ってcの周期をもつ繊維状超分子の電子密度分布をρ(r)とする.その繊維状超分子の層線強度をI l(R)とすると, ?Q(r,z)は以下のように書ける.(r,zは実空間の円筒座標である.)2? 2πlz??Q( rz , ) =∑I R J Rr RdRlc≠{∫l( ) 0( 2π) 2πcos0 }? c ?(1)ここでJ 0(2πRr)は2πRrを変数とする0次の第1種ベッセル関数で, lは層線の次数である. l=0を除いているのは,筋肉のX線回折像において,赤道ではアクチン,ミオシン両フィラメントの六方格子配列によるブラッグ反射となっているため,ミオシンフィラメントのみによる反射強度が利用できないことによる.赤道の強度を除いて計算されるパターソン関数のことをここでは差パターソン関数と呼んでいる.差パターソン関数(?Q(r))はρ(r)と赤道面に投影した平均電子密度((1/c)∫ρ(r)dz)との差である?ρ(r)(フィラメントに沿った電子密度の凸凹構造の大きさ)の自己相関関数(∫?ρ(r’)?ρ(r’+r)dr’)である.この?Q(r)のフーリエ変換が赤道以外の層線反射の強度分布を与える.ミオシンフィラメントの?ρ(r)は主にフィラメント骨格の周りに分布するクロスブリッジとCタンパク質によって決定されている.サンプリングのある層線反射の強度から計算した?Q(r, z)マップ(図4a参照)には, rの値が大きい位置にはフィラメント間のベクトルピークが観測され, rの値が小さい位置には同一フィラメント内のベクトルピークが主として観測される.したがって, rの値が大きい位置に観測されるフィラメント間のベクトルピークを取り除くことで層線上のフィラメント間の干渉ピークを取り除くことができる.これを取り除いた差円筒対称パターソン関数を?Q t(r, z)と書くと, ?Q t(r, z)の逆フーリエベッセル変換によってサンプリング効果を取り除いた単一のフィラメント由来の赤道を除く層線強度分布(?I(R, Z))の導出が可能となる. R, Zは逆空間の円筒座標である.c2=∫{∫}?I( R, Z) 2 ?Qt( r, z) J0( 2πRr) 2πrdr cos( 2πzZ)dz0(2)実際に図2bの観測層線強度分布から求めた?Q(r, z)(図4a)とフィラメント間のベクトルピークを取り除いた?Q t(r,z)から求めた層線強度分布を図4bに示す.図4aで黒い鎖線より外側に現れるピークを,主としてフィラメント間のベクトルピークと同定し,その領域の値をすべて0図4差円筒対称パターソン関数(?Q(r,z))と補正後の層線強度分布.(Cylindrically symmetrical differencePatterson function and the corrected layer line intensities.)(a)実測の層線強度データから計算された?Q(r,z)マップ.黒い鎖線はフィラメント内とフィラメント間ベクトルの境界を示す.(b)補正後の層線強度分布(太い実線)と観測強度分布(薄い実線)の比較.206日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)