日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 38/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

大島勘二,若林克三図1筋繊維の筋節とミオシンII HMMの構造模式図.(Schematic structures of a sarcomere of a myofibriland a myosin II HMM.)(a)筋繊維の全体構造.筋節(サルコメア)(Z帯とZ帯に挟まれた部分)を最小の収縮構造単位としてその中に2種類のフィラメントが規則的に並んでいる.筋収縮はATPの加水分解反応と共役してミオシンとアクチン両フィラメントが相互作用して筋節が短縮することで生じる.(b)ミオシンII HMM(heavy meromyosin)の模式図.骨格筋のミオシンはミオシンIIと呼ばれている. HMM部分は2つの頭部, 2対の軽鎖とテール(ロッド)からなる.頭部はモータードメインとレバーアーム部分からなる.ィラメントの円筒平均された層線状の回折パターンを示し, X線繊維回折像と呼ばれる.横断面でみると太いフィラメントは六方格子状に配列していて,細いフィラメントは3回軸上に位置する.その結果,回折像の赤道はフィラメントの六方格子配列によるブラッグ(結晶)反射となり,ミオシンフィラメント由来の層線反射はこの格子配列によって動径方向にサンプリングされる(図2参照).昆虫の飛翔筋6)や硬骨魚のひれの筋肉7)のX線回折像では,この格子構造が結晶構造のように規則正しく保たれているため,層線もブラッグ回折パターンを呈し,結晶構造解析と同じアプローチで強度解析がなされている.しかし高等動物(カエルやウサギ)の骨格筋の回折パターンは格子構造が不規則な超格子性8)をもつため,高次にいくほどサンプリングピークが拡がり,連続的パターンを呈するようになっている.このようなX線回折像は正確な強度解析の障害となっていた.加えて解析を困難にしていることは,骨格筋ミオシンフィラメントでは,規則的ならせん配列と摂動を伴った配列の2種類のクロスブリッジ領域が存在していることである(図5a参照). 9),10)この摂動を伴うクロスブリッジ配列は脊椎動物の骨格筋に広く共通する特徴と言われている.魚の骨格筋ミオシンフィラメント11)や哺乳類の心筋から抽出したミオシンフィラメント12)の電顕単粒子解析では,この摂動が従来の長軸方向に加え,方位角方向にも生じていることが明らかにされている.さらに,最近骨格筋切片の電顕トモグラフィー解析によってMyBP-C(Myosin Binding Protein-C)と呼ばれるCタンパク質がクロスブリッジと同じ周期で太いフィラメントの骨格に結合していることが示された. 13)トモグラフィー像では3つのクロスブリッジレベルごとに3回対称をもって太いフィラメントの骨格から外側に腕をのばしているように見えている(図5b参照).しかし,ミオシンクロスブリッジの周期とCタンパク質の周期が同じなのか異なるのかに関しては電顕やX線回折の両研究とも昔から論争の的になっていて今まで決着がつけられてこなかった. 14)-18)われわれはCタンパク質がミオシンクロスブリッジの周期と異なることを明らかにした.また(差)円筒対称パターソン関数を利用して六方格子由来の不完全なサンプリング効果を除去し,単一筋フィラメントによる強度データを得る方法とミオシンフィラメントの摂動,規則領域を含めた解析法を確立した. 10),19)そして骨格筋ミオシンフィラメントの新しい構造モデルを構築し,ミオシンの筋収縮制御への関与を明らかにした. 20)2.弛緩状態の高等動物骨格筋のX線回折2.1弛緩状態の筋肉のX線繊維回折像弛緩状態(10℃)の骨格筋のX線回折像(図2a)には基本周期42.9 nmで指数付けされる太いミオシンフィラメントによる一連の強い層線反射が観測されている.ミオシン由来の層線反射を赤道に近い層線からM1, M2,…として示す.ミオシンフィラメントの基本構造は双頭のクロスブリッジの等価な3本のらせんからなる3重らせん構造である.クロスブリッジは軸方向に14.3 nmの間隔で配列し1ターン9残基の9/1らせん(周期128.7 nm)3本ですべての分子を辿ることができる.全体としては3回回転軸で結ばれる形でフィラメントが形成されている. 1本のらせんからの回折像は1/129 nm ?1で指数付けされるX(cross)型の層線分布を形成する.しかし実際の弛緩状態のカエル骨格筋の回折像には上述した規則的な3重らせん構造では説明できない反射が子午軸上に存在している.これらの反射の出現はクロスブリッジのらせん配列が結晶学的周期(42.9 nm)内で摂動を伴って配列しているためであるとされている. 8),10)また太いフィラメントは筋節内でM線を中心として重合極性が反転しているため(図1a),子午軸上の回折パターンはM線を挟んだ中心対称配列によるcos(πLZ)(L;2配列の中心間距離, Z;逆空間の子午方向の座標)のサンプリングを受けている.この子午方向のサンプリング効果を調べるためには高角度分解能放射光ビームの利用が不可欠であった.204日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)