日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 37/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌55,203-210(2013)最近の研究から放射光X線回折によるミオシンクロスブリッジの頭部間相互作用―ミオシンフィラメントの筋収縮制御の構造的基盤大阪大学蛋白質研究所大島勘二大阪大学基礎工学研究科若林克三Kanji OSHIMA and Katsuzo WAKABAYASHI: Structural Basis of Muscle Regulationby Synchrotron X-ray Diffraction? Head-Head Interactions of Myosin Crossbridges inResting Higher Vertebrate Striated MuscleSkeletal muscle contraction is regulated mainly by Ca 2+ binding to the thin actin filamentsin a sarcomere, but the participation of the thick myosin filament in the regulatory mechanismhas remained to be clarified. The lattice sampling-free intensities of the myosin layer lines inthe X-ray diffraction patterns from live resting higher vertebrate striated muscles with a fullthick-thin filament overlap were analyzed. Atomic modeling of the myosin filament wasperformed, revealing the head-head interactions of myosin crossbridges, which are in commonamong various resting striated muscles. The head-head interactions are primarily electrostaticand the converter domain is responsible for their interactions. The results indicate that multiplehead-head interactions of myosin crossbridges stabilize the resting myosin structure and playa role in the regulatory function also in the thin filament-regulated muscles.1.はじめに1.1 X線回折法による筋肉の構造研究筋肉はアクチン,ミオシンの2種類のタンパク質による相互作用によって両フィラメントの滑り運動の力を発生させる.このときミオシンはATPの加水分解による化学エネルギーを力学エネルギーに変換させるトランスデューサーの役割を,アクチンはミオシンと協調して力を発生させる足場の役割を担っている.筋肉の動作原理を明らかにする目的で進められてきたX線回折による筋肉研究は,これまでに数々の重要な構造情報を提供してきた.生筋のX線回折法は電子顕微鏡(電顕)法やNMR法によるタンパク質の構造解析と比較して“生きた”状態での構造を明らかにすることができるより客観的な構造解析の手法である.しかし位相の情報が未知であるため,構造を導くにはその回折パターンを最もよく説明するモデルを構築する(モデリング)ことが必要になる.またX線結晶解析と比べると分解能は4 nm程度で,回折パターンのみから原子的分解能の構造を一義的に導くのは困難であるが,構成分子の既知の原子構造と組み合わせることでサブナノメータスケールのモデリング解析が可能である.本稿では,放射光を利用したX線繊維回折法による弛緩状態の高等動物骨格筋太いミオシンフィラメントの構造解析について概説する.そして構造から見たミオシンフィラメントの筋肉制御機能へのかかわりについて述べる.日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)1.2ミオシンフィラメントの筋収縮制御機構への関与筋肉は筋節(サルコメア)を最小の収縮構造単位として,その中で細いフィラメントと太いフィラメントが規則正しく並び, Z帯から両側に伸びた長さ1μmの細いフィラメントと,長さ1.6μmの太いフィラメントの半分が重なっている(図1a).平滑筋や無脊椎動物の横紋筋ではミオシンフィラメントを構成するミオシン分子に結合した制御軽鎖のリン酸化の有無に依存して筋収縮のスイッチがオン・オフされる.一方,高等動物の横紋筋(骨格筋,心筋)では細いフィラメント上のトロポニン-トロポミオシンへのカルシウム結合によって筋収縮が制御されていると言われており,ミオシン分子の制御機構への関与に関しては詳しく研究されてこなかった.しかし,近年電子顕微鏡(電顕)像の単粒子解析法によって,無脊椎動物であるクモ(tarantula), 1),2)ホタテ貝(scallop), 3)カブトガニ(limulus)4)の横紋筋に加え高等動物の平滑筋,心筋,骨格筋から抽出したヘビーメロミオシン(HMM)(2つの頭部とロッド部分からなるミオシンクロスブリッジと呼ばれる部分)(図1b)が,筋肉の弛緩溶液条件において,頭部同士を近づけた共通のコンフォメーションをとることが報告された. 5)この結果は高等動物の横紋筋においても筋収縮の制御にミオシン分子が関与する可能性を示唆するものであった.1.3高等動物骨格筋のX線構造解析における問題点ミオシンフィメント,アクチンフィラメントともらせん構造をもつため,筋肉からのX線回折像はそれぞれのフ203