日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 29/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

微生物産生ポリエステルの構造,物性および生分解性図11P(3HB)単結晶の酵素分解.(Enzymatic degradation of P(3HB)lamellar crystals.)(A)免疫電子顕微鏡法により可視化された分解酵素の結晶表面への吸着を示すTEM像,(B)酵素分解途中の単結晶TEM像,(C)酵素分解途中の単結晶AFM像,(D)単結晶の酵素分解様式.分解酵素23)を用い,視覚的見地から分子論的に解明した透過型電子顕微鏡像を図11に示す. PHB分解酵素は,高分子鎖を切断する触媒ドメイン,基質に吸着する吸着ドメイン,両者を結ぶリンカードメインを有する多機能酵素である.免疫電子顕微鏡法により酵素の単結晶表面への吸着を可視化したところ(図11A),単結晶表面に対する酵素の吸着には,明確な位置的特異性は確認されず,結晶表面全体に酵素が吸着している様子が観察された. 26)酵素分解過程の電子顕微鏡写真では,図11Bに示すように単結晶が周囲から分解され小さくなっていくとともに単結晶の長軸に平行な割れ目が確認された.また,原子間力顕微鏡を用いて酵素分解の過程を詳細に観察したところ,単結晶の長軸に垂直方向から分解が進行したことにより生じたと思われる結晶の小さなフラグメントが確認された(図11C). 27)しかしながら,酵素分解後の単結晶の厚さおよび分子量においては,分解前とほとんど変化が見られなかった.さらに,酵素分解途中の単結晶表面にポリエチレンを真空蒸着したところ,酵素分解前と同じように結晶表面に分子鎖の折りたたみ構造を示唆するポリエチレンの縞模様が確認された. 11)以上のことから,酵素による単結晶の分解は,酵素の吸着が結晶中の分子鎖の運動性を向上させる何らかの要因を果たし,その結果として運動性の高まった分子鎖が結晶中から露出し,結晶は側面および分子鎖充填の弱い領域から酵素により分解されると考えられる.これらの実験結果をもとに考えられる酵素分解モデルを図11Dに示す. 28)結晶の分解が側面から優先的に進行するという知見は,同じ結晶化度を有する材料でも微結晶の量(結晶側面の量)により分解速度を制御できることを意味している.フィルムの結果を合わせると,材料の分解性は結晶化度と微結晶量でコントロールすることが可能であると考えられる.9.4分解酵素の結晶構造最近われわれは,大型放射光を用いたタンパク質構造解日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図12 PHB分解酵素の立体構造と3HBトリマーとのドッキングモデル.(A molecular surface of depolymeraseand a model of the R3HB trimerbound in the crevice.)析により,世界で初めてPHB分解酵素の結晶構造解析に成功した(図12). 29) PHBの2種類の分子鎖構造(2回らせん構造と平面ジグザグ構造)を分解酵素の触媒部位に結合させるシミュレーションモデルを構築したところ,平面ジグザグ構造のほうが触媒部位にうまく収まることがわかった.本結果は,高分子材料学からのアプローチと構造生物学からのアプローチが相補しあえることを示している.さらに,われわれの分子動力学シミュレーションの結果,2回らせん構造を採っているP(3HB)分子鎖は延伸によりコンフォメーション角が動くことにより,容易に延ばされ平面ジグザグ構造へと転移することがわかっている. 8)したがって,いったんらせん構造から平面ジグザグ構造へと分子鎖が転移してから酵素の触媒部位に取り込まれると考えられる.また,分子レベルで分解酵素の機能を解明することにより,生分解性速度をコントロールするだけでなく,難分解性高分子材料を分解する新規な分解酵素の構築も可能になると考えられる.195