日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 28/82

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日本結晶学会誌Vol55No3

岩田忠久る.したがって,現実的な生分解性の評価のためには,両者を併用することが望ましい.9.1結晶化度超高分子量P(3HB)のソルベントキャストフィルム,熱延伸フィルム,熱延伸・熱処理フィルムの生分解性をRalstonia pickettii T1由来のPHB分解酵素23)を用いて調べたところ,ソルベントキャストフィルム>延伸フィルム>熱延伸・熱処理フィルムの順で分解速度は低下した(図8). 1),24)すべてのフィルムの分解速度を結晶化度に対してプロットすると,分解速度は成型条件ではなく,結晶化度に大きく依存することがわかった.図9に, PHB分解酵素により部分加水分解を受けたフィルムの走査型電子顕微鏡像を示す.フィルム表面に存在する非晶部が分解され,フィルム内部の結晶領域が現れている.特に,熱延図8結晶化度と酵素加水分解速度の関係.(Relationshipbetween rate of enzymatic degradation and crystallinity.)○:溶融結晶化フィルム,●キャストフィルム,■:熱延伸フィルム,▲:熱延伸・熱処理フィルム.伸・熱処理フィルムにおいては,積層したラメラ結晶の束が周期的に配向している様子が確認できた.長時間の酵素分解により,最終的にはすべての結晶は加水分解される.その分解様式については単結晶の項で詳述する.9.2分子鎖構造高強度繊維の微生物分解を荒川河川水を用いて行ったところ, 2週間程度で生物化学的酸素要求量(BOD)生分解度が80%に達し, 28日間試験後では重量生分解度100%を示したことから,高強度繊維は完全に微生物分解されることが示された. 25)図10に, PHB分解酵素による分解前後の高強度繊維の走査型電子顕微鏡像とX線回折パターンを示す.図10Bの写真から,酵素分解は繊維表面から一様に分解されるのではなく,虫食いが起こるように繊維内部へと進行していく様子が観察された. 18)通常,繊維内部には結晶領域と非晶領域が存在し,酵素はまず非晶領域を優先的に分解しているためと考えられる.次に,前述のように,高強度繊維には2回らせん構造(α構造)と平面ジグザグ構造(β構造)の2種類の分子鎖構造が存在する.分解前後のX線回折において,α構造の回折強度は変化しないのに対し,β構造の回折強度は極端に減少したことから,β構造のほうがα構造より速く分解されることがわかった. 18)すなわち,分解酵素は繊維中の非晶領域を分解しながら繊維内部に進入し,繊維中のβ構造を優先的に分解した後,α構造を分解したと考えられる.この結果は,同じ化学構造を有していても,分子鎖構造により分解速度をコントロールできることを示唆している.9.3単結晶の酵素分解P(3HB)単結晶の酵素による吸着および分解機構を,活性汚泥より単離されたRalstonia pickettii T1由来のPHB図9酵素分解途中のフィルムのSEM像.(SEM imagesof films after partially enzymatic degradation.)(A)溶融結晶化フィルム,(B)熱延伸フィルム,矢印は延伸方向.図10P(3HB)高強度繊維の酵素分解.(Enzymaticdegradation of high-strength fibers.)(A)酵素分解前と(B)酵素分解途中の走査型電子顕微鏡像および(C)X線回折パターン.194日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)