日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 27/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

微生物産生ポリエステルの構造,物性および生分解性図6微生物産生ポリエステルから作製した高強度繊維のマイクロビームX線回折図と芯鞘構造模式図.(Micro-beam X-ray diffraction diagrams of hightensile strength fiber and schematic display ofcore-sheath structure.)(A)左は繊維全体からのX線回折図,右は真ん中の繊維写真における1~3の箇所からそれぞれ得られたマイクロビームX線回折図,(B)芯鞘構造模式図とP(3HB)の2種類の分子鎖構造(らせん構造(α)と平面ジグザグ構造(β)).配列することができれば,多様な物性の要求に応えられる生分解性材料の作製が可能となると考えられる.8.繊維内部の非破壊的観察冷延伸・二段階延伸法と微結晶核延伸法で作製したPHA繊維の小角X線回折をBL45XUビームラインで撮影を行った.通常,単繊維一本の小角X線回折を得ることは,輝度の低い研究室レベルでのX線回折装置では非常に困難であるが, SPring-8の強力線源を用いればミリ秒で測定できることから,静的な測定だけでなく,昇温下や延伸過程などの動的な測定も可能となる.今回作製した2種類の繊維のうち,冷延伸・二段階延伸法で作製した繊維は子午線方向にラメラ結晶の周期性を示す回折点が観察されたが,微結晶核延伸法で作製した繊維では子午線方向の回折は観察されず(図7A),赤道線上に大きなストリーク回折が見られた(図7B).高強度繊維の小角回折において,赤道線上に見られるストリーク回折は一般に繊維中に存在するボイドの影響であると考えられているが,いまだその直接的な証拠は示されていない.そこで,筆者らは大型放射光を用いて非破壊的に内部構造を可視化できるX線トモグラフィーの測定を行った.図7Cに,微結晶核延伸法で作製した高強度繊維の三次元X線トモグラフィー像を示す.繊維内部に存在する無日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図7高強度繊維の小角X線散乱とX線トモグラフィー像.(Small-angle X-ray patterns and X-raytomographic images.)(A)冷延伸・二段階延伸法により作製されたP(3HB)高強度繊維,(B)微結晶核延伸法により作製されたP(3HB-co-3HV)高強度繊維,(CとD)微結晶核延伸法で作製されたP(3HB-co-3HV)繊維のX線トモグラフィー像,スケール=20μm数の小さなボイドの存在を,世界で初めて明らかにすることができた. 21)一方,冷延伸・二段階延伸法で作製した繊維にはボイドは認められなかった.したがって,赤道線上のストリークは繊維内部に存在するボイドに起因すると考えられる.微結晶核延伸法により作製した繊維の破壊強度を,ボイドの平均サイズおよび繊維断面積に対するボイドの存在率を考慮して再計算すると,約2倍の2.2GPaとなることがわかった.すなわち, PHA繊維はさらなる高強度化が可能であることを示唆している.さらに,繊維軸方向にきれいに入ったボイドにより,繊維自体の重量が約半分になっていると考えられる.考え方を変えれば,軽量高強度繊維の作製に成功したともいえ,高強度を保ちながら軽量化が必要な分野で本繊維の利用および作製方法の適用が期待できる.最近われわれの研究室では,内部ポアにバンコマイシンなどの抗生物質を含浸させることにより,生体吸収性と長期薬物徐放性を併せもった繊維を開発することにも成功している. 22)9.生分解性速度の制御生分解性ポリエステルの生分解性試験評価法には,微生物由来のポリヒドロキシブチレート(PHB)分解酵素を用いる酵素分解法と,土壌,堆肥中,海洋,河川などに埋設,浸漬し自然環境中に生息する微生物によって分解を行う微生物分解法がある.精製酵素を用いて加水分解実験を行った場合,材料の分解速度は,用いた酵素の特性や材料の固体構造によって変化する.一方,自然環境中での微生物分解は,多種多様な微生物や酵素の共存のもとに加水分解を受けるとともに,季節や気候によって大きな影響を受け193