日本結晶学会誌Vol55No3

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日本結晶学会誌Vol55No3

岩田忠久表3ポリヒドロキシアルカン酸繊維とほかの高分子繊維の物性. 33)(Mechanical properties of PHA and commonplastic fibers.)試料野生株産生P(3HB)超高分子量P(3HB)野生株産生P(3HB-co-3HV)破壊強度(MPa)破壊伸び(%)ヤング率(GPa)Gordeyevら14)190545.6Schmackら15)330377.7Yamaneら16)310603.819)本研究740326.417)本研究13203518.1Ohuraら30)1836.59Yamamotoら31)210301.820)本研究1322318.1P(3HB-co-4HB)Martinら32)545600.7ポリ乳酸520~57025~354~6ポリエチレン400~8008~353~8ポリプロピレン400~70025~603~10ポリエチレンテレフタレート530~64025~3511~13し,非晶質繊維を作製した.次いで,この非晶質繊維を,氷水中で約6~12倍に冷延伸することにより,配向非晶質繊維を作製した.さらに,この配向非晶質繊維を室温で約6~8倍に延伸することにより,冷延伸・二段階延伸された高配向非晶質繊維を得た.この50倍以上に延伸された高配向非晶質繊維を熱処理することにより,破壊強度1.3 GPa,破壊伸び35%,ヤング率18.1 GPaの生分解性および生体適合性を有する高強度繊維の作製に世界で初めて成功した(表3). 17),18)6.野生株産生ポリエステルからの高強度繊維われわれは遺伝子組み換え大腸菌を用いて生成した超高分子量ポリエステルを用いて高強度繊維の作製には成功したが,これでは汎用性に乏しく,コストパフォーマンスにも欠ける.そこで,前述の冷延伸・二段階延伸法を改良することにより,通常の分子量(60万程度)の野生株産生P(3HB)からでも高強度繊維を作製できる微結晶核延伸法を開発した. 19),20)微結晶核延伸法とは,急激な結晶化を抑制しながら微小な結晶核を形成させ,その結晶核を起点として分子鎖を高配向させる延伸方法である.まず,溶融-急冷によって非晶質繊維を作製し,これを氷水浴中にて一定期間静置することで,微結晶核を形成させ,その後,室温で延伸することにより,分子量に依存することなく,高配向繊維の作製を可能にした.この微結晶核延伸法によって,市販のP(3HB)からでも破壊強度740 MPaを有する高強度繊維を得ることができた(表3).この微結晶核延伸法は,P(3HB)共重合体にも有効であった.P(3HB-co-3HV)は,これまでいくつか繊維化の報告例はあるが,破壊強度は200 MPa程度と低いものであった.しかし,今回われわれが開発した微結晶核延伸法をP(3HB-co-3HV)に適用することで,低分子量である市販のP(3HB-co-3HV)ではこれまで得ることができなかった,破壊強度1.3 GPaという高強度繊維の作製に成功した. 20)この微結晶核延伸法は,微生物産生ポリエステルだけでなく,ほかの生分解性ポリエステルの繊維化にも適用でき,簡便に高強度繊維を作製できる技術として期待されている.7.大型放射光を用いた単繊維の局所構造解析今回作製したP(3HB)高強度繊維のX線繊維図において,結晶状態で最も安定とされる分子鎖構造である2回らせん構造(α構造)に加え,分子鎖が伸びきった平面ジグザグ構造(β構造)に由来する回折点が確認された(図6A).破壊強度の増大とともにβ構造の回折強度が強くなったことから,β構造の発現は,高強度化に重要な因子であると考えられる.繊維内部をさらに詳細に解析するために,兵庫県播磨にある大型放射光施設SPring-8(BL47XUビームライン)において, 0.5μmに集束させたマイクロビーム(波長=1.54 A, 8 keV)を単繊維(直径20μm)に照射するマイクロビームX線測定を行った. SPring-8のビームは非常に平行性が高いため,このようにナノオーダーでの収束が可能であり,局所領域の回折実験が可能となる.単繊維の端から中心に対して順次マイクロビームX線測定を行ったところ,冷延伸・二段階延伸を施したP(3HB)高強度繊維は,外側がα構造を有する結晶のみで構成され,内部はα構造とβ構造の2種類の結晶が存在する,つまり2つの結晶構造が局在した芯鞘構造であることがわかった(図6B). 17),18)一方,微結晶核延伸法により作製したP(3HB)高強度繊維は,マイクロビームX線測定よりα構造とβ構造の2種類の結晶が繊維全体に均一に存在する構造であることがわかった. 20)このように単繊維の局所構造解析を行い,P(3HB)の2種類の分子鎖構造を,材料中に目的に応じて192日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)