日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 25/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

微生物産生ポリエステルの構造,物性および生分解性図5P(3HB)単結晶の透過型電子顕微鏡像.(Transmission electron micrographs of solution-grown crystals ofP(3HB).)(A)ラメラ結晶像,(B)電子回折図,(C)単結晶表面にポリエチレンを修飾した単結晶像,(D)折れ曲がり分子鎖構造を有するラメラ結晶の模式図.と考えることができる.高分子を稀薄溶液から結晶化させると,分子鎖が規則正しく折りたたまれて成長する厚さが10 nm程度の薄いラメラ(板状)結晶が電子顕微鏡で観察される.単結晶の構造や諸物性を解明することにより得られる知見は,高分子材料の結晶領域の構造や性質を理論付ける上において重要な役割を果たすものと考えられる.図5に,クロロホルム/メタノールの希薄溶液から等温結晶化により生成したP(3HB)単結晶の透過型電子顕微鏡像と電子回折図を示す. 10)単結晶の電子回折図(図5B)における各回折点から得られた面間隔値が,配向結晶性フィルムのX線繊維図(図3)から得られている面間隔値と一致することから,単結晶はフィルム内の結晶領域を反映していると考えられる.単結晶の大きさや厚さは透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)で測定することが可能であり,P(3HB)単結晶は, 1つの凝集核を中心とし,幅1~3μm,厚さが約5 nmのラメラ結晶である.ラメラ結晶表面における分子鎖の折りたたみ構造を直接可視化することは不可能である.そこで,ラメラ結晶表面に低分子量のポリエチレンを真空蒸着し,間接的にTEMで観察するポリエチレンデコレーション法が用いられる.ポリエチレン修飾を施したP(3HB)単結晶表面において長軸に対して,垂直にポリエチレンの縞模様が確認できることから(図5C), 11)単結晶表面で分子鎖の折りたたみが規則正しく生じていると考えられる.また,結晶の成長方向が電子回折図のa軸と一致していることから,単結晶中に生じている分子鎖の折りたたみはa軸に沿って生じていると考えられる. 10)-12)5.超高分子量ポリエステルからの高強度繊維自然環境中に存在する野生のポリエステル合成菌が生産する野生株産生P(3HB)の重量平均分子量は,約60万程度である.一般に高分子材料は,分子量が増大すると物日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)性が向上することから,P(3HB)においても,まず高分子量化を検討した.筆者らは,P(3HB)合成菌であるRalstonia eutropha H16由来のPHB生合成遺伝子(phbCAB)を導入した組み換え大腸菌Escherichia coli XL1-Blue(pSYL 105)を用い,炭素源としてグルコースを用い, Luria-Bertani培地中, 2段回分培養において,通気酸素量,撹拌速度,炭素源濃度,培地温度,培地のpHなどさまざまな培養条件を検討した.その結果,遺伝子組み換え大腸菌を用いたP(3HB)の発酵合成において,培地のpHが分子量に大きな影響を与えることがわかった.培養時のpHを酸性側にシフトすることにより,重量平均分子量500~2000万を有する超高分子量P(3HB)の生合成に成功した. 13)これは,分子量の増大を抑制する因子である連鎖移動剤の発生を,培地のpHを酸性側にシフトしたことにより抑制できたためと考えられる.しかし現在のところ,この連鎖移動剤が何であるかは解明されていない.これまでP(3HB)は,結晶化速度が遅いことや二次結晶化に伴う室温での経時劣化のため,繊維化は困難であった.最初に繊維化に成功したのは, Gordeyevら14)であるが,破壊強度190 MPaと汎用高分子の物性にはほど遠いものであった(表3). Schmackら15)は, 2000~3500 m/minで高速紡糸を行った後, 4.0~6.9倍に延伸することにより,破壊強度330 MPa,ヤング率7.7 GPa,破壊伸び37%の繊維を得ている.また, Yamaneら16)は, 28 m/minで紡糸を行った後, 110℃で6倍に延伸,さらに100 MPaの張力をかけた状態で熱処理を施すことにより,破壊強度310 MPa,ヤング率3.8 GPa,破壊伸び60%の繊維を得ている(表3).今回筆者らは,超高分子量P(3HB)を用いて,新たな延伸法を開発することにより,高強度・高弾性率繊維の作製に成功した.まず,溶融押出したP(3HB)を氷水中に急冷191