日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 23/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

微生物産生ポリエステルの構造,物性および生分解性資源であるバイオマスを原料としている点に特徴があるため,すべてのバイオマスプラスチックが必ずしも生分解性という機能をもっているわけではない.したがって,バイオマスプラスチックでは,最終的に焼却も処理方法の1つとして考えられ,二酸化炭素の循環を考慮した「カーボンニュートラル」の概念が先行している.さらに付け加えるなら,生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックとは言え,製造工程で石油から得られる電気や燃料エネルギーを使用していることを理解しておく必要がある.現在世界各国で研究が進められている環境に優しいプラスチックは,上記の観点から,バイオマスから生産され生分解性も有する生分解性バイオマスプラスチック(ポリ乳酸,微生物産生ポリエステル,ポリアミノ酸,多糖類など),石油から合成され生分解性を有する生分解性石油由来プラスチック(ポリカプロラクトン,ポリブチレンサクシネートなど),バイオマスから生産され生分解しない非生分解性バイオマスプラスチック(セルロースエステル誘導体,ポリテトラメチレンテレフタレート,バイオポリエチレンなど),の大きく3つに分類される(表1).本報では,生分解性バイオマスプラスチックの1つである微生物産生ポリエステルの種類と構造および物性,新規な成形加工技術の開発による高強度・高弾性率繊維の開発,大型放射光を用いた構造科学研究,酵素分解性機構の解明,という一連の基礎研究の成果について紹介する. 1)-3)2.バイオポリエステルの種類と物性自然界に存在する多くの微生物は,植物がデンプンを貯蔵炭水化物として蓄積するのと同じように,ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と呼ばれるポリエステルをエネルギー貯蔵物質として体内に蓄積する.このポリエステルは,微生物が飢餓状態に陥ると,体内にもつ分解酵素によって分解されエネルギーとなることから,ちょうど動物の脂肪に相当する. 4)図1は,ポリエステル(白い部分)を乾燥重量当たり86%にまで体内に蓄積した微生物の電子顕微鏡写真である.微生物産生ポリエステルは, 1925年にフランス・パスツール研究所のLemoigne博士により微生物培養中に発見され,光学的に100%R体の規則性を有する3-ヒドロキシブタン酸が直鎖状につながったポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート](P(3HB))である. 5) P(3HB)は,水素細菌,窒素固定菌,光合成細菌など100種類以上の原核生物によって,糖,有機酸,炭酸ガスなどの炭素源から合成されるバイオマスプラスチックであり,環境中のほかの微生物が分泌する分解酵素によって完全に分解される生分解性プラスチックでもある(図1).P(3HB)は,生分解性ポリエステルの中でもポリプロピレン(PP)と同程度の高い融点(180℃)をもつ材料であり,破壊強度もPPに近く, PPと比較されることが多いが,日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)図1表2微生物産生ポリエステルの(A)生合成と(B)生分解.(Biosynthesis and biodegradation of microbialpolyesters.)写真は, 80%以上のポリエステルを蓄積した遺伝子組み換え大腸菌の透過型電子顕微鏡像(図中の白い部分が蓄積したポリエステル).PHAフィルムの物性.(Mechanical properties ofPHA films.)Tm(℃)Tg破壊強度(℃)(MPa)破壊伸び(%)P(3HB)1774155P(3HB-co-8 mol%-3HV)16511935P(3HB-co-16 mol%-4HB)150-726444P(3HB-co-90 mol%-4HB)50-42651,080P(3HB-co-10 mol%-3HHx)127-121400ポリプロピレン176-1038400低密度ポリエチレン130-3610620破壊伸びが5%以下と低いため硬い材料である.さらに,ガラス転移温度が4℃と室温以下であるため,室温で保存中に結晶化が進行(二次結晶化)し,結晶性の高いもろい材料となる欠点がある.例えば,室温で3週間放置したP(3HB)フィルムの破壊強度,破壊伸びおよびヤング率は,それぞれ14 MPa, 11%, 0.48 GPaであり,汎用高分子に比べ極端に劣る(表2).物性を向上させる方法として,第2成分モノマーを導入する共重合体化が挙げられる.微生物の種類や用いる炭素源を変えることにより,さまざまな分子構造をもつ共重合ポリエステルが見出されており,共重合体の種類や組成を変化させることにより,結晶性の硬いプラスチックから弾性に富むゴム状まで,多様な物性を示すことが報告されている(表2).現在,代表的な共重合ポリエステルとして,3-ヒドロキシバレリル酸(3HV)を導入したポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシバレレート](P(3HB-co-3HV)), 3-ヒドロキシヘキサン酸(3HH)を導入したポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](P(3HB-co-3HH)), 4-ヒドロキシブタン酸(4HB)を導入したポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレー189