日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌Vol55No3 page 20/82

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概要:
日本結晶学会誌Vol55No3

片岡邦光差フーリエ合成により表れたトンネル内の負の残差にLiを占有させてRietveld解析を行った結果,信頼度因子も下がり,残差も小さくなったこと,最大エントロピー法から求めた原子核散乱長密度分布においても,不明瞭な密度分布が見られないことから結晶構造として妥当であることがわかる.本研究により決定された結晶構造とNa 2Ti 6O 13との違いは,アルカリイオンの席の違いである. Naイオンの座標は(0.4540(8)0 0.2508(1)),一方Liイオンの座標は(0.450(1)1/2 0.246(2))であり,特殊位置であるy座標が1/2ずれている. Naイオンはトンネルの一番狭い位置から1/2ずれた位置に占有しているが, Liイオンはトンネルの一番狭い位置に占有している.このことから,Na 2Ti 6O 13と比較してLi 2Ti 6O 13はトンネル長が延び200反射は低角側にシフトしていることがわかる.Liイオンの配位について検討するため,平面3配位の場合と平面4配位の場合についてbond valence sumを計算した.その結果平面3配位の場合が0.927,平面4配位の場合が1.015であった.平面4配位モデルのほうがLiイオンの価数1に近いことからLiの配位は平面4配位が妥当であると判断される.精密化された結晶構造パラメータを用いたモデル(モデルI), Na 2Ti 6O 13と同構造であるとしてLi席のy座標を1/2ずらしたモデル(モデルII)を用いてプログラムWIEN2k 22)による第一原理計算を行った.その結果モデル1は-83235.34 eV,モデル2は-83234.37 eVであった.この第一原理計算の計算の結果からモデルIのほうが,わずかにエネルギーが低く結晶構造が安定であることがわかる.3.6リチウムイオン二次電池特性Li 2Ti 6O 13多結晶試料を用いたLiイオン挿入・脱離試験の結果を図20bに示す.また比較のためNa 2Ti 6O 13多結晶試料を用いたLiイオン挿入・脱離試験結果を図12aに示す.初期放電容量は,当初の想定どおり, Li 2Ti 6O 13は,既存物質であるLi 4Ti 5O 12の理論容量175 mAh/gを超える230 mAh/gの容量であった.しかしながら,不可逆容量が大きくサイクル安定性にも問題が見られた.前駆体であるNa 2Ti 6O 13は既報では, 60 mAh/gと容量は小さいが,不可逆容量も小さくサイクル安定性に優れている.この差は両者の結晶構造の相違によるものと考えられる.図6および図11からもわかるように,両者の(Ti 6O 13)2?からなる骨格構造は同一である.したがってこの差は両者のアルカリイオンの配位形態の相違によるものと推察される.図13にNa 2Ti 6O 13とLi 2Ti 6O 13のアルカリイオンの配位形態を示す. Na 2Ti 6O 13はNaイオンは酸素と八配位NaO 6を形成しており,その配位は強固であり構造安定性に優れると考えられる.そのため,外部からLiイオンが挿入されるスペースが少なく,結果として低容量であり,結晶構造が変化することもないので良好なサイクル安定性につながった図12 Na 2Ti 6O 13とLi 2Ti 6O 13多結晶試料を用いたリチウムイオン挿入・脱離試験結果.(Charge-dischargeproperties of a)Na 2Ti 6O 13 and b)Li 2Ti 6O 13.)図13 a)Na 2Ti 6O 13のNaO 8局所構造. b)Li 2Ti 6O 13のLiO 4局所構造.(The oxygen coordination environmentsaround a)the 4i site in Na 2Ti 6O 13 and b)the 4i sitein Li 2Ti 6O 13.)と考えられる.一方でLi 2Ti 6O 13のもつ平面四配位LiO 4は脆く,初期放電の多量のLiイオンの挿入に伴い,トンネル構造が維持できず壊れたものと考えられる.これらの結果から,一部Naイオンを残留させることによりLiイオンの挿入・脱離特性が改善すると期待される.4.総括現行リチウムイオン二次電池負極材料Li 4Ti 5O 12の単結晶を合成に成功して,単結晶を用いたLiイオンの挿入・脱離が可能であること,またLiイオンの挿入サイトを単結晶X線回折データをもとに結晶構造解析,電子密度分布解析を行い明らかにし,結晶構造の制約により理論容量が175 mAh/gであることを明らかにした.さらなる高容量負極材料の開発に向けて,トンネル構造186日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)