日本結晶学会誌Vol55No3

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日本結晶学会誌Vol55No3

日本結晶学会誌55,180-187(2013)総合報告(学会賞受賞論文)新規リチウムイオン電池負極材料の開発とその結晶学的評価㈱独産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門結晶制御プロセス研究グループ片岡邦光Kunimitsu KATAOKA: Synthesis and Crystal Structure Analysis of Lithium-IonRechargeable Battery Anode MaterialsSingle crystals of Li 4+x Ti 5 O 12 were prepared by means of electrochemical Li-ion intercalationtechnique using parent Li 4 Ti 5 O 12 single crystals. The obtained Li 4+x Ti 5 O 12(x=1.35)crystallizesin the cubic spinel-related type structre, space group Fd3 _ m, and lattice parameters of a=8.346(3)A and V=581.3(5)A 3 . The Li-ion intercalated sites were successfully determinedby single crystal X-ray diffraction. From the result, because of the structural restriction of thespinel structure, unfortunately, the theoretical capacity was revealed to be 175 mAh/g. Newmaterial Li 2 Ti 6 O 13 with rectangular tunnels was synthesized by Na+/Li+ion-exchange methodas one of the negative electrode material having a high capacity than Li 4 Ti 5 O 12 . The Li 2 Ti 6 O 13was determined the precise crystal structure by powder neutron diffraction and evaluatedreversible Li insertion/extraction reaction.1.はじめに現在,社会全体としてエネルギー問題, CO 2削減をはじめとした環境問題の打開が求められている.その打開策1つに化石燃料に由来するエネルギーの代替エネルギーが求められ,電気エネルギーへのシフトが加速している.電気エネルギーを利用して,従来のエネルギーと同等のエネルギー得るために近年リチウムイオン二次電池が注目されており,日本をはじめ,多くの国で研究・開発がされている.リチウムイオン二次電池は,鉛蓄電池やニッケル水素電池などの二次電池に比べエネルギー密度が高いため高出力が期待できる.そのため,近年ではPCや携帯電話などの小型精密機械に主に用いられているが, HV車やEV車など環境を配慮した自動車,家庭用蓄電池や携帯電話基地局のバックアップ電源などの定置型電源への利用が想定されている.リチウムイオン二次電池は高エネルギー密度,軽量などの長所がある一方で,発火の危険性や高容量がとれない,LiやCoなどレアメタルを含むために材料コストが高いなどの短所も併せもっている.現在その短所を解決のため次世代バッテリーの開発が急務となっている.現在用いられている,リチウムイオン二次電池負極材料は負極にグラファイトなどの炭素材料を使用しているものがほとんどである.しかしながら,最近,酸化物負極材料が実用化されるなど少しずつ注目されている.これには,炭素材料に比べてサイクル特性が良好であること,安全性に優れること,将来的な展望にある全固体電池の先行材料開発としての位置づけなどが考えられる.また解決すべき点として容量の増大が挙げられる.今回,私がこれまで行ってきたリチウムイオン二次電池負極材料の現行物質であるLi 4Ti 5O 1),2) 12と新規リチウムチタン酸化物Li 2Ti 6O 3) 13について結晶学的側面からの研究を報告する.2.Li 4 Ti 5 O 12単結晶に関する研究2.1研究目的スピネル構造を有するLi 4Ti 5O 12は,リチウム二次電池負極材料として現在実用化されている材料である.Li 4Ti 5O 12は低電位(約1.5 V)でのプラトー領域が広範囲にわたっており,酸化物系負極材料として重要な物質である.Li 4Ti 5O 12はLiTi 2O 4からLi 4Ti 5O 12までLiイオンの増加に伴い,連続固溶体を形成されることが知られている. 4)このとき,増加したLiイオンは16dサイトにTiとともに占有される.充放電特性に関する初めての報告は, 1989年に行われている. 5)また充放電に伴うLiイオンの挿入位置に関して1995年に16cサイトにLiイオンが占有すると報告されている. 6)一方2004年にブチルリチウムによるLiイオンの化学的手法による挿入が報告されている. 7)この報告では,中性子回折, 7 Li-NMR,ラマン分光により,挿入位置が16cと48fであると報告されている.しかしながら,化学的手法による挿入と,電気化学的手法によるもので, Liイオンの挿入位置が異なるとは理解しがたい.Li 4Ti 5O 12の単結晶試料の合成は, 1971年に初めて行われている. 8)この報告では原料にLi 2TiO 3粉末試料とTiO 2粉末試料を真空封入することにより合成を行い,単結晶試料を使用した構造解析を行っている.しかしながら,単結晶試料の詳細な報告はなされておらず,非等方性温度因子については精密化されていない. 2003年にはLi 2CO 3粉末試料, TiO 2粉末試料, Ti 2O 3粉末試料を原料に電析により180日本結晶学会誌第55巻第3号(2013)